腫瘍崩壊症候群(TLS)は、がん細胞が一気に壊れて中身――カリウム・リン・核酸(=尿酸)――が血中にあふれ、高K血症・高リン血症(→低Ca)・高尿酸血症と急性腎障害を起こす代謝性緊急症。致死的な不整脈・心停止の原因になる。古典的にはBurkittリンパ腫や急性白血病の初回治療で起こるが、NEJMの総説(2025)が強調するのは、いまは分子標的薬(とくにベネトクラクス)で”低リスク”とされた腫瘍にも起こり、予測しにくくなったという変化。さらにラスブリカーゼの登場で腎障害の主役は尿酸から「リン」へ移り、かつて常識だった尿のアルカリ化はもう推奨されない。この記事は、疑い方→診断→予防→確立TLSの電解質対応を、当直で動ける形に落とす。
この記事の芯
TLSは「細胞が一気に壊れて中身が漏れる」病態。高K・高P(→低Ca)・高尿酸+AKIで、致死的不整脈が最大の敵。
予測しにくくなった(ベネトクラクス等で低リスク腫瘍でも起こる/自然発症・ステロイド誘発もある)。予防の柱は輸液+尿酸対策で、アルカリ化はもうしない。ラスブリカーゼ時代の腎障害の主役は尿酸でなく高リン血症。
この記事でわかること
- TLSは高K・高P(→低Ca)・高尿酸+AKI。致死的不整脈・心停止が最大の敵
- 診断はCairo–Bishop/Howard:検査4項目(尿酸・P・K・補正Ca)のうち2つ以上+臨床(AKI/不整脈/痙攣)1つ
- タイミングは治療の3日前〜7日後。検査だけのlaboratory TLSと、臓器症状を伴うclinical TLSを分ける
- いまは予測しにくい:ベネトクラクスで低リスク腫瘍にも/自然発症・ステロイド誘発・放射線でも
- 予防:治療24〜48時間前から輸液(1〜3 L/m²/日、尿量2 mL/kg/h)+尿酸対策(低リスク=アロプリノール、高リスク=ラスブリカーゼ)
- アルカリ化(重炭酸)はもう推奨されない(リン排泄を妨げ、リン酸カルシウム沈着を悪化)
- ラスブリカーゼ時代は腎障害の主役が尿酸→高リン血症。低Caは症状がなければ補正しない
- 落とし穴:G6PD欠損はラスブリカーゼ禁忌/偽性高K(極端な白血球増多・CLL)/ラスブリカーゼ検体は氷冷・4時間以内
- 日本:ラスブリカーゼ(ラスリテック)とフェブキソスタット(フェブリク)に、がん化学療法に伴う高尿酸血症の適応
1TLSとは、なぜ危ないのか
がん細胞が急速かつ大量に壊れると、細胞内のカリウム・リン・核酸が一気に血中へ出る。核酸は代謝されて尿酸になる。結果、高K血症・高リン血症(リンがCaと結合して低Ca)・高尿酸血症と、急性腎障害が起こる。
死亡に直結するのは主に高Kと低Caによる致死的不整脈・心停止で、併存疾患のある入院患者でとくに危ない。TLSは入院日数・費用・死亡を増やす。
腎障害は「尿酸の結晶」だけではない
かつては尿酸結晶が尿細管を詰まらせると考えられたが、動物モデルでは結晶だけでは説明できない。ヒストンやサイトカイン(自然免疫の活性化)など結晶に依存しない機序も関わる。そして高リン血症が直接・間接(リン酸カルシウム沈着)に腎を傷める。
2いつ疑うか ― 予測しにくくなった、が総説の芯
古典的な高リスクは、Burkittリンパ腫、高腫瘍量の急性白血病、high-grade B/T細胞リンパ腫の初回治療。だが総説がいちばん言いたいのは、その地図が変わったことだ。
- ベネトクラクス(CLL):初期試験でTLS 18%(1例死亡)→段階的増量スケジュールが作られた。”低リスク”とされた腫瘍でも起こる
- 見落としやすい状況:自然発症、ステロイド誘発、放射線後、固形がん、潜在がんの初発症状として
- 高腫瘍量の代替指標:高尿酸・白血球増多・LDH高値・高齢。「軽度の腎前性高窒素血症+高K」が隠れたTLSのサインのことも
3診断基準 ― Cairo–Bishop / Howard
診断はCairo–Bishop(2004)とHoward(2011)の基準による。検査基準と臨床基準を組み合わせる。
図1:TLSの診断基準(Cairo–Bishop / Howard)
| 項目 | 基準 | 補足 |
|---|---|---|
| 検査基準 ― 2項目以上(いずれも基礎値から25%上昇でも可) | ||
| 尿酸 | ≥8.0 mg/dL(476 µmol/L) | 成人。小児はULN超 |
| 無機リン | ≥4.5 mg/dL(成人) | 小児は≥6.5 mg/dL |
| カリウム | ≥6.0 mmol/L | 致死的不整脈のリスク |
| 補正カルシウム | <7.0 mg/dL | イオン化Ca<4.5 mg/dLでも可 |
| 臨床基準 ― 1項目以上 | ||
| 急性腎障害 | Cr ≥1.5×ULN/0.3 mg/dL上昇/尿量<0.5 mL/kg/h×6時間 | 最も多い臨床所見 |
| 不整脈・突然死 | 高K・高P・低Caによる | テレメトリで監視 |
| 痙攣・テタニー等 | 低Caによる(+低血圧・心不全) | 補正Caで評価 |
| 成立条件 | 適切な輸液+尿酸降下薬の下で、検査2項目以上+臨床1項目を、治療の3日前〜7日後の24時間内に満たす。検査のみ=laboratory TLS/臓器症状あり=clinical TLS | |
ポイントは、「検査だけ」のlaboratory TLSと「臓器症状あり」のclinical TLSを分けること。重症度はCairo–Bishopグレードで評価する。
4予防① 輸液と、もうしないアルカリ化
予防の第一歩は輸液。治療の24〜48時間前から始め、1〜3 L/m²/日(原則0.9%生食)で尿量2 mL/kg/hを目標にする。最初の24〜72時間が勝負。
「入れっぱなし」は害 ― 溢水を避ける
体液過剰は低酸素・肺水腫・ICU入室・RRTを増やし、新規AML成人では死亡増加と関連した。尿量モニタと溢水回避を両にらみにする。
アルカリ化(重炭酸)はもうしない
尿酸の溶解性を上げる目的で行われてきたが、いまは推奨されない。リン排泄を妨げてリン酸カルシウム沈着・低Ca悪化を招くため。日本でも厚労省の対応マニュアルが「基本的に現在は尿のアルカリ化は推奨されていない」と明記している。
腎毒性薬(NSAIDs・ACE阻害/ARB・一部抗菌薬・造影剤)は、可能なら中止・代替する。
5予防② 尿酸対策(アロプリノール/ラスブリカーゼ)と細胞減量
図2:リスク層別と尿酸対策
| リスク | 代表的な腫瘍・治療 | 尿酸対策・要点 |
|---|---|---|
| 高リスク | Burkitt・high-grade B/T細胞リンパ腫、AML(WBC>5万)、ALL(WBC>10万)、ベネトクラクス(CLL) | ラスブリカーゼ+十分な輸液。G6PD欠損は禁忌 |
| 中リスク | 進行期のaggressiveリンパ腫、中等度腫瘍量 | アロプリノール+輸液+厳重モニタ(状況でラスブリカーゼ) |
| 低リスク | 多くの固形がん・低増殖腫瘍 | アロプリノール(or 経過観察)+輸液 |
| 予測外に注意 | 自然発症・ステロイド誘発・放射線後、そしてベネトクラクスで”低リスク”腫瘍でも起こる。高尿酸・白血球増多・LDH高値・高齢は高腫瘍量の代替指標 | |
- 低リスク:アロプリノール(キサンチン酸化酵素阻害で尿酸産生を抑える。7〜10日、腎機能で減量)。フェブキソスタットも同等(2 RCTで優劣なし)
- 高リスク:ラスブリカーゼ(尿酸をより速く下げる)。ただし腎合併症を明確には減らさない(尿酸は速く下がる)。G6PD欠損は禁忌(溶血・メトヘモグロビン血症)
- 細胞減量:白血球増多+leukostasisには白血球除去・ヒドロキシウレア・低強度化学療法。リンパ腫ではprephaseステロイドがLDHを下げTLSを軽減しうる(小児ALLで88%減の報告)。リツキシマブを数日遅らせるとTLS/輸注反応が減りうる
ラスブリカーゼの用量 ― 日本と国際のギャップ
国際的には単回1.5〜7.5 mg(高リスクは3 mg単回)でも多くで有効とされる。一方日本の添付文書は体重換算0.2 mg/kgを1日1回・最大7日(30分以上かけて点滴、化学療法開始4〜24時間前)で、固定少量の単回は国内では添付文書外。用量は使用施設の運用と添付文書に従う。
6確立TLSの電解質対応 ― 高K・高P・低Ca・高尿酸
起きてしまったら、電解質を追いながら是正する。最初の24〜72時間は6〜12時間ごとに採血し、テレメトリで監視する。
図3:確立TLSの電解質対応
| 電解質異常 | 位置づけ | 対応 |
|---|---|---|
| 高カリウム血症 | 最優先 | Ca静注(膜保護)→インスリン+ブドウ糖/β刺激(細胞内移行)→陽イオン交換薬(ZS-9等。ただし緩徐で緊急には使わない)→難治はHD |
| 高リン血症 | 腎障害の主役 | 生食+利尿でP排泄↑、経口リン吸着薬、必要ならCRRT。P 6.6 mg/dLでAKIを特異度84%で予測 |
| 低カルシウム血症 | 症状時のみ | 無症状は補正しない(リン酸カルシウム沈着を助長)。テタニー・痙攣・不整脈などがあればCa補充 |
| 高尿酸血症 | 是正できる | ラスブリカーゼで是正。心電図(テレメトリ)を継続 |
| RRT | 重症高リン血症・症状性低Ca・AKIで適応。持続法(CRRT)が基本(リン除去は時間依存、間欠HD後のリバウンドを防ぐ)。ただし極端な高Kは間欠HDが速い | |
優先順位を間違えない
高Kが最優先(膜保護のCa→細胞内移行→除去)。高リン血症がラスブリカーゼ時代の腎障害の主役で、Pを追う。低Caは症状がなければ補正しない(リン酸カルシウム沈着を助長する)。RRTが要るなら持続法(CRRT)が基本。
7落とし穴と日本の実情
- G6PD欠損:ラスブリカーゼ禁忌(溶血・メトヘモグロビン血症)。地中海・アフリカ・中東・東南アジア系で高頻度、日本人は約0.1%とまれだが念頭に。国内でルーチンのスクリーニングはなく、民族背景・溶血既往で臨床判断。急性溶血中の測定は偽低値
- 偽性高K血症:極端な白血球増多(>10万、とくにCLL)では採血時に細胞が壊れて起こる。高Pや高尿酸を伴わない孤立性の高Kは偽性を疑い、心電図で確認(治療すると医原性低Kを招きうる)
- ラスブリカーゼの検体:ex vivoでも活性が残る→予冷ヘパリン管・氷水搬送・4時間以内に測定(さもないと尿酸が偽低値)
日本で使える薬(添付文書ベース)
- ラスブリカーゼ(ラスリテック):「がん化学療法に伴う高尿酸血症」に承認。0.2 mg/kg 1日1回(30分以上点滴)・最大7日、化学療法開始4〜24時間前。G6PD欠損は禁忌。予防の位置づけ(発症後治療での有効性は未確立)
- フェブキソスタット(フェブリク):痛風とは別に「がん化学療法に伴う高尿酸血症」の独立適応(2016年追加)。この適応では60 mgを化学療法開始1〜2日前から5日目まで。国内第III相でアロプリノールに非劣性(Tamura K, Int J Clin Oncol 2016;21:996-1003)
- アロプリノール:高尿酸血症に使用。腎機能で減量(具体量は成書の目安。添付文書は「減量・投与間隔延長を考慮」)
- ZS-9(ロケルマ):高K血症に使用可。ただし効果発現が緩徐で、緊急の高K血症には使わない(開始10 g×3/日×最長3日→維持5 g/日)
8やりがちな失敗とTake home
| 1 ”低リスク腫瘍だから大丈夫”と油断 | ベネトクラクス等で低リスクでも起こる。自然発症・ステロイド誘発も。 |
| 2 尿をアルカリ化する | もう推奨されない。リン排泄を妨げ沈着を悪化させる。 |
| 3 低Caをみたら反射的にCa補充 | 症状がなければ補正しない(リン酸カルシウム沈着)。 |
| 4 G6PDを確認せずラスブリカーゼ | 溶血・メトヘモグロビン血症。G6PD欠損は禁忌。 |
| 5 孤立性の高Kをそのまま治療 | 極端な白血球増多では偽性高Kを疑い、心電図で確認。 |
| 6 尿酸が下がったから安心 | ラスブリカーゼ時代の腎障害の主役は高リン血症。Pを追う。 |
| 7 輸液を入れっぱなし | 体液過剰は害(肺水腫・死亡増)。尿量と溢水を両にらみ。 |
Take home
- TLSは高K・高P(→低Ca)・高尿酸+AKI。致死的不整脈が最大の敵。いまは低リスク腫瘍でも起こる
- 診断はCairo–Bishop/Howard(検査2+臨床1、治療3日前〜7日後)。laboratoryとclinicalを分ける
- 予防は輸液(24〜48h前、尿量2 mL/kg/h)+尿酸対策(低リスク=アロプリノール、高リスク=ラスブリカーゼ)。アルカリ化はしない
- 確立TLS:高Kを最優先、高リン血症が腎障害の主役、低Caは症状時のみ補正、RRTはCRRTが基本
- 落とし穴:G6PD禁忌・偽性高K・ラスブリカーゼ検体は氷冷。日本はラスリテック/フェブリクに適応
参考文献
- Bociek RG, Lunning M. Tumor Lysis Syndrome. N Engl J Med. 2025;393:1104-1116.
- Cairo MS, Bishop M. Tumour lysis syndrome: new therapeutic strategies and classification. Br J Haematol. 2004;127:3-11.
- Howard SC, Jones DP, Pui C-H. The tumor lysis syndrome. N Engl J Med. 2011;364:1844-1854.
- Tamura K, et al. Efficacy and safety of febuxostat for prevention of tumor lysis syndrome. Int J Clin Oncol. 2016;21:996-1003.(国内第III相)/Spina M, et al. FLORENCE. Ann Oncol. 2015;26:2155-2161.
- 国内添付文書:ラスブリカーゼ(ラスリテック)/フェブキソスタット(フェブリク)/ZS-9(ロケルマ)。厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル「腫瘍崩壊症候群」.
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