ECMOの成否はカニューレで半分決まる。脱血の太さが流量を決め、送血の位置が合併症を決める。しかも「先端を右房近くに」で済ませられない――VVとVAでは、同じ大腿静脈脱血でも狙う先端位置が違う。本章(ECMO入門④)は構成の選び方、サイズ、先端位置、挿入時の落とし穴、そして末梢VAで必ず問題になる下肢虚血を、数字とともに整理する。
この記事の芯
脱血カニューレの太さが最大流量を規定する。細いと陰圧が深くなりchattering・溶血を招く(→③)。ただしFr=流量ではない――抵抗は長さに比例し半径の4乗に反比例する。
VVは大腿脱血-内頸送血が第一選択。大腿-大腿は再循環が増えるため第二選択、二腔カニューレは離床に有利という位置づけ。VAは末梢(大腿静脈-大腿動脈)が最多で、ELSOは中枢より末梢を望ましいとしている。
先端位置はVV脱血=IVC/RA接合部の手前、VA脱血=SVC/RA接合部と別物。末梢VAでは導入時に遠位灌流カテーテルを置く。
この記事でわかること
- 脱血カニューレの太さが最大流量を規定する。ただしFr(外径)は流量そのものではない
- サイズは日本の三学会/ECMOnetがBSA別に提示(VV脱血23〜29 Fr)。ELSOの23〜31 Frと実質同じレンジ
- VA送血は日本の実臨床で16〜18 Frが常用。20 Fr超は下肢虚血の危険因子
- VVは大腿脱血-内頸送血が第一選択。大腿-大腿は再循環が増えるため第二選択
- 二腔カニューレは「優れている」のではなく「離床に有利」。挿入難度・位置ずれ・抜去時の空気という代償がある
- VV脱血の先端はIVC/RA接合部の“手前”。VA脱血はSVC/RA接合部まで進める――VVとVAで違う
- VVの脱血-送血の距離はおおむね15 cmを目安に、送血は三尖弁へ向ける
- 末梢VAの下肢虚血は現代でも10〜30%。DPCで9.7% vs 25.4%まで下がる(観察研究のメタ解析)
- DPCはELSOが「導入時に置く」とする。6〜8 Frで100 mL/min以上。日本のJCSは4〜7 Fr
- DPCは送血カニューレより末梢を足側に向けて刺す。逆血に頼らずエコーで
- 下肢監視はNIRS 50%以上(できれば60%)・左右差20%未満。触診ではなくドプラで
- ワイヤーはダイレータごとに位置を確認する。右室穿孔はしばしば致死的
1脱血が流量を決める ― ただしFr=流量ではない
達成できる血流量は脱血カニューレの抵抗でほぼ決まる。総説の言い方を借りれば「流量は動脈(送血)側より静脈(脱血)側のカニューレサイズで制限されることのほうが多い」。脱血が細ければ十分な流量が出ず、無理に引けば陰圧が深くなりchattering・溶血・ポンプ内キャビテーションを招く(→③)。だから脱血は太くが原則になる。
Frは外径であって流量ではない
カニューレの血流抵抗は長さに比例し、半径の4乗に反比例する(Poiseuilleの式。カニュレーションの総説が明記している。ELSOのVAガイドラインを全文検索してもこの記述はないので、「ELSOが書いている」と引用しないほうがいい)。つまり効くのは内径と長さであって、カタログのFr(外径)ではない。
厳密には、実際のカニューレの流れは乱流成分を含むので純粋なPoiseuille則には従わない。だからこそ各製品の実測値が要る。
同じ23 Frでも、長い大腿アクセス用と短い頸部用では通せる流量がまったく違う。実務では各製品の圧-流量曲線(M-number)を見るのが正しい。研修医が最初に直すべき誤解はここだ。
2構成をどう選ぶか
図1:VV/VAのカニューレ構成と位置づけ
| 構成 | 脱血→送血 | 位置づけ |
|---|---|---|
| VV:大腿脱血-内頸送血 | 下大静脈(脱血)→右内頸静脈(送血) | 第一選択。最も速く確立でき、再循環が少なく、full supportが可能 |
| VV:大腿-大腿 | 両側大腿静脈 | 送血の向きを三尖弁へ向けられず再循環が増える。第二選択 |
| VV:二腔カニューレ | 単一(右内頸) | 1本で脱送血。覚醒・離床(awake ECMO)に有利。挿入は難しく位置ずれ・脳静脈うっ滞・抜去時の空気に注意 |
| VA:末梢 | 大腿静脈(脱血)-大腿動脈(送血) | 最多。逆行性送血のためdifferential hypoxia・LV過膨張・下肢虚血が起こる |
| VA:中枢 | 開胸(右房脱血-上行大動脈送血) | 順行性でdifferential hypoxiaは起きにくいが侵襲大。ELSOは末梢のほうが予後良好で望ましいとする |
VV ― 第一選択は大腿脱血-内頸送血
ELSOの成人呼吸不全ガイドラインは、大腿脱血-内頸送血について「最も速く確立でき、透視などの画像がなくても実施でき、再循環が最小で、full supportを提供できる」と述べている。まずこれが基準になる。
大腿-大腿は、送血カニューレの先端を三尖弁の正面に置けないため再循環が大きな弱点になり、総説でも第二選択と位置づけられている。
二腔カニューレは「上位互換」ではない
二腔カニューレ(右内頸から1本)の利点として、ELSOが挙げているのは「患者の離床がしやすくなる可能性」であって、成績が優れているとは書かれていない。むしろ欠点として挿入が難しい、位置がずれる、脳静脈のうっ滞、抜去時の空気塞栓、径が大きく頭蓋内出血が増える可能性、高流量を出しにくいことが並べられている。
「覚醒・リハビリを狙うなら二腔」という選び方が正しく、「新しいから良い」ではない。
VA ― 末梢が基本。中枢は限定的
末梢VA(大腿静脈脱血-大腿動脈送血)が最も多く用いられる。逆行性送血になるためdifferential hypoxia(→②⑦)・LV過膨張・下肢虚血という3つの宿題がついてくる。
中枢VA(開胸、右房脱血-上行大動脈送血)は順行性送血なのでdifferential hypoxiaは起きにくい。ただしELSOは「末梢のほうが最終的な予後が良好と考えられ、心臓手術後であっても末梢を優先すべき」としており、中枢が選ばれるのは主に大腿・腸骨レベルの高度な末梢動脈疾患がある場合だ。「中枢のほうが安全」という理解は誤り。
大腿動脈が使えないとき ― 次は鎖骨下、頸動脈は最後
ASOやバイパス術後で大腿動脈に送血カニューレを置けないことがある。この場合の順序を、ELSOと日本のガイドラインはほぼ同じように書いている。
- 鎖骨下動脈・腋窩動脈:ELSOは末梢アクセスの一形態として認め、利点として「(a) differential hypoxiaを最小化する、(b) 長期化が見込まれる場合に離床を進めやすい、(c) 左室補助単独への移行を可能にする」の3つを挙げている。直接カニュレーションのほかchimney graftを用いる方法も併記されている。
- 日本のJCS 2023も同じ:「大腿動脈のアクセスが困難な場合には,鎖骨下動脈からのアクセスを考慮するが,酸素化された血液を冠動脈や頸部分枝に灌流するという点で,右鎖骨下動脈を第一に選択する」。differential hypoxiaへの対処として送血部位を右鎖骨下動脈に変更する、という書き方もされている。
- 頸動脈は最終手段:ELSOは「通常は小児に限られる」「急性脳障害のリスクが増えることを認識したうえで、大腿・腋窩/鎖骨下・中枢のいずれも不可能なときの最後のアクセス」と位置づけている。JCS 2023には成人の送血部位として頸動脈が登場しない。
鎖骨下・腋窩にも固有の合併症がある
下肢虚血から逃げられる代わりに、同側上肢の過灌流症候群という別の問題が来る。頻度は報告により大きく違い、Chamogeorgakis 2013(n=308)では同側上肢の過灌流症候群24.7%・グラフト部出血17.3%、Cakici 2017では経皮2.7%に対し側枝グラフト30%と、手技で一桁違う。腕神経叢損傷の報告もある。
比較研究はすべて後ろ向きでランダム化試験はない。ひとつの数字を覚えるのではなく、「大腿から逃げると上肢に問題が移る」という構造だけ持っておけばいい。
「頸動脈で5〜10%脳梗塞」の出典が見つからない
成人の頸動脈送血について、この数字を示した資料を見つけられなかった。ELSOは数値を書かず「最終手段」とだけ位置づけている。近い数字として存在するのは小児のレジストリで、VA-ECMO 2,977例中611例(21%)に神経学的傷害があり、頸動脈カニュレーションは独立した危険因子(OR 1.4)だった、というもの。成人に外挿できる数字ではない。
3サイズの目安
図2:成人でのカニューレサイズの目安(日本とELSOの併記)
| 用途 | 日本(三学会/ECMOnet・国内報告) | ELSO・欧米 | 備考 |
|---|---|---|---|
| VV 脱血(大腿) | BSAに応じて 23〜29 Fr | 23〜31 Fr | 流量を規定する。細いと陰圧が深くなりchattering・溶血(→③) |
| VV 送血(内頸) | BSAに応じて 17〜21 Fr | 脱血より細い | 下のBSA表を参照 |
| VA 脱血(大腿静脈) | 19〜25 Fr(22 Fr前後が中心) | 25/29 Fr | VVと違い先端はSVC/RA接合部まで進める |
| VA 送血(大腿動脈) | 15〜19 Fr、16〜18 Frが常用 | 15〜17 Frが通常(19・21 Frは稀) | 太いほど下肢虚血のリスク。20 Fr超は危険因子 |
| 二腔カニューレ | ― | 23/27/31 Fr | Banfiらの報告で最大3/4.5/5 L/min |
表:Fr(フレンチ)は外径であって流量そのものではない。抵抗は長さに比例し、半径の4乗に反比例する(Poiseuilleの式。ELSOのガイドラインに書かれている記述ではなく、カニュレーションの総説による)。同じFrでも製品ごとに圧-流量特性が違うので、最終的には各カニューレの圧-流量曲線(M-number)で判断する。二腔カニューレの3/4.5/5 L/minはBanfi 2016の記述で、メーカーのカタログには圧損曲線しか載っておらず公称最大流量として示された値ではない。単管カニューレに一般化してはならない。
VVについては、日本の三学会・ECMOnetの資料が体表面積(BSA)ごとの具体的なサイズ表を出している。暗記するならこちらのほうが実用的だ。
図3:VVカニューレのBSA別の目安(日本)
| 体表面積 BSA(m²) | 脱血管径(大腿静脈・50 cm) | 送血管径(内頸静脈) |
|---|---|---|
| 1.0〜1.3 | 23 Fr | 17 Fr |
| 1.3〜1.6 | 23 Fr | 17 Fr |
| 1.6〜1.8 | 25 Fr | 19 Fr |
| 1.8〜2.1 | 27 Fr | 19 Fr |
| 2.1〜2.4 | 29 Fr | 21 Fr |
表:日本集中治療医学会ほか三学会・ECMOnetの資料(日集中医誌 2020;27:6、COVID-19に対するECMO)に掲載された体表面積別の目安。BSA 1.6〜1.8の標準的な日本人成人でも脱血25 Frで、ELSOの成人推奨(23〜31 Fr)と実質同じレンジにある。VVについて日本と欧米で推奨径が大きく違うわけではない。
「日本人は体格が小さいから細いカニューレ」は本当か
現場でよく聞く説明だが、カニューレ径の差を体格差で説明した日本の権威ある資料は見当たらない。上の表のとおり、そもそも日本の推奨とELSOの推奨は大きく離れていない。
一方で、日本固有の注意点として文献に明記されているのはまったく別の話だ。青景・竹田らは、従来のPCPS用システムをそのままECMOに転用すると、カニューレおよび回路チューブの径が細いため十分な流量が出ないと指摘している。問題は患者の体格ではなく機材の出自――心臓外科の短時間補助を想定したPCPSと、数日〜数週間のfull supportを想定したECMOでは、必要な流量が違う。
「うちのECMOは流量が出ない」と感じたら、患者の体格ではなく使っている回路とカニューレの仕様を先に確認したほうがいい。
送血側で重要なのは「太いほど下肢が危ない」という関係だ。20 Frを超えるカニューレは下肢虚血の危険因子とされる(Bonicolini 2019)。逆に15〜17 Frの細い送血カニューレでは虚血が少なかったという報告もある(Simons 2024。ELSOが15〜17 Frを挙げているのは「必要流量を満たすのに通常は十分」という文脈で、虚血が減ると述べたものではない点は区別しておきたい)。いずれにせよ挿入前に総大腿動脈をエコーで計測しておく。
「カニューレ径÷血管径」の比に基準はない
下肢虚血を避けるためのカニューレ径と血管径の比(0.75など)を定めたガイドラインは存在しない。0.75という数字の出典となる原著も特定できない。観察研究のレベルでは「送血カニューレの外径が血管径の80%未満」を用いた報告や、Bonicoliniが挙げる「BSA÷カニューレサイズが11を超えると虚血が少ない」という指標があるが、いずれも基準として確立したものではない。
言えるのは「20 Fr超が危険因子」「小さいほうが虚血が少ない」「事前に血管径を測る」までで、比の数字を基準のように書いてはいけない。
4先端位置 ― VVとVAで違う
ここが本章で最も間違えられるところだ。「脱血の先端は右房近く」で丸暗記すると、VVで再循環を作る。
図4:カニューレ先端位置
| 対象 | 先端位置 | 理由 |
|---|---|---|
| VV 脱血(大腿) | 下大静脈、IVCとRAの接合部のすぐ手前 | 送血ジェットから離すため、あえてRAまで進めない |
| VV 送血(内頸) | 右房内で三尖弁の正面に向ける | 再循環を減らす |
| VV 脱血-送血の距離 | おおむね15 cm | 再循環を減らすための目安(→②) |
| 二腔カニューレ | 遠位孔=IVC/RA接合部手前、近位孔=SVC、中央の送血孔=三尖弁の正面 | エコーで送血ジェットの向きを確認 |
| VA 脱血(大腿静脈) | SVCとRAの接合部 | VVより深く進める。ここが両者の決定的な違い |
| VA 送血(大腿動脈) | ガイドラインは特定の指標を示していない | 「適切な位置」としか書けないのが正直なところ |
表:出典を分けておく。VVの先端位置と15 cmはBanfi 2016(総説)の記述で、ELSOガイドラインの規範的な指示ではない。VA静脈脱血のSVC/RA接合部はELSO VAガイドラインに出てくるが、本文ではなく透視画像の図説明の中の記述である。いずれも「ガイドラインがそう定めた」と言えるほど強い書かれ方はしていない。
理屈は単純で、VVは同じ静脈系の中で脱血と送血が競合するから、脱血先端をあえてIVC/RA接合部の手前に留めて送血ジェットから距離をとる。一方VAは送血が動脈側なので競合せず、脱血効率を優先してSVC/RA接合部まで進める。
なお大腿動脈送血の先端位置について、ELSOは具体的な指標を示していない。「適切な位置」としか書けないのが現状で、断定的な数字を載せている資料があれば出典を確かめたほうがいい。
5挿入手技と、致死的な落とし穴
ELSOのVVガイドラインは「体表エコーでの血管穿刺が、盲目的穿刺と比べて最も安全であることが示されている」とし、血管エコーを第一選択に置く。成人呼吸不全ガイドラインもエコーや透視でカニューレ位置の確認を助けるとし、ワイヤー位置は画像で確認することを求めている。
ワイヤーはダイレータごとに確認する ― 右室穿孔は致死的
ELSOの記載で最も重い一文がこれだ。「大きなダイレータとカニューレを用いるSeldinger法では、ダイレータごとにワイヤーを確認することが重要」。
VVガイドラインはさらに踏み込んで、「ワイヤーが心室内にあることに気づかないままダイレータとカニューレを進めると、容易に穿孔を起こし、しばしば致死的となる」と書いている。
ELSOが挙げる安全策は「まず通常の細い血管内カテーテルを留置し、採血や圧測定でその位置を確認してから」拡張に進むこと。急いでいるときほど、この順序を飛ばさない。
経皮的アプローチと外科的切開のどちらが優れるかについては、ELSOは「経皮の優越性は確定的には示されていない」としている。施設の習熟度で選ぶのが実際的だ。
6下肢虚血と遠位灌流カテーテル
末梢VAの送血肢は虚血する
大腿動脈に太い送血カニューレを入れると、その遠位(下肢)の血流が途絶し、虚血・コンパートメント症候群・切断に至りうる。これは合併症というより、末梢VAの構造上の帰結だと考えたほうがいい。
図5:末梢VAの合併症 ― 頻度と、DPCの効果
| 項目 | 数値 | 出典の性格 |
|---|---|---|
| 下肢虚血の頻度(現代) | 10〜30% | Simons 2024(総説)。報告のばらつきは大きく、Bonicolini 2019は「10〜70%」と書いている |
| ELSOレジストリ(2014-2018) | 虚血 5.3%/切断 0.7% | Lorusso 2021のTable 11。自己報告のレジストリで過小報告バイアスがある |
| 遠位灌流カテーテル(DPC)あり vs なし | 9.7% vs 25.4%(絶対リスク減 15.7%、RR 0.41、95%CI 0.26〜0.65) | Juo 2017のメタ解析。22件すべて後ろ向き研究でRCTなし。死亡率に有意差はない |
| カニューレ留置部の出血 | 12.5% | Lorusso 2021のTable 11 |
| 培養陽性の感染 | 7.6% | Lorusso 2021のTable 11 |
表:DPCの有効性を示すデータはすべて観察研究で、ランダム化試験はない。予防的に置くべきか虚血が出てから置くべきかについて、明確なエビデンスはないと総説も明言している。ELSOは「導入時に置く」としているが、このinterim guidelineは冒頭で「必ずしもコンセンサス推奨ではない」と断っており、GRADEなどの推奨度・エビデンスレベルの格付けをもたない。「ガイドラインが強く推奨している」と読むのは正しくない。
遠位灌流カテーテル(DPC)の実際
ELSOのVA-ECMOガイドラインは「大腿動脈カニュレーションと同側の遠位灌流を推奨する」とし、さらに「遅れを生まないよう、ECMO導入と同時に遠位肢灌流を確立することを推奨する」と、予防的留置を明記している。
- カテーテルは6〜8 Frの補強付きを、同側の浅大腿動脈へ。
- 流量を測定し、少なくとも100 mL/minを目標とする。
- 動脈カニューレと静脈カニューレは別の下肢に置くほうが望ましいとELSOは述べている。
- 副作用として送血カニューレとDPCの間の大腿動脈に血栓ができるリスクがあることも、ELSO自身が指摘している。
穿刺はどこに、どちら向きに ― 逆血に頼れない
ELSOは場所をかなり細かく指定している。原文は「送血カニューレより末梢、かつ分岐部より中枢で総大腿動脈を穿刺し、浅大腿動脈へ導く」。針先は足側に向ける。カテーテル室の通常の穿刺とは向きが逆になるので、現場では「逆挿し」と呼ばれることがある。
図6:遠位灌流のやり方は1つではない
| 方法 | やり方 | サイズ | 位置づけ・出典 |
|---|---|---|---|
| 順行性DPC(浅大腿動脈) | 送血カニューレより末梢で総大腿動脈を穿刺し、針先を足側に向けて浅大腿動脈へ。ELSOが手順まで示す標準 | 6〜8 Frの補強付き、100 mL/min以上 | ELSOが “is recommended”。Madershahian 2006が経皮法を記載 |
| 逆行性(後脛骨動脈・足背動脈) | 足関節レベルの動脈から逆行性に灌流。内果後方に切開を置いて動脈切開する | 6〜8 Fr(切開・直視下) | ELSOは “might be also considered” の一文のみ。順行性が置けないときの代替 |
| 遠位SFAへのカットダウン | 直視下に遠位の浅大腿動脈を露出して送血ラインを分岐 | ― | ELSO一般ガイドラインが「遠位血流が不十分なとき」の対処として併記 |
| 側枝グラフト(end-to-side) | 人工血管を大腿動脈に端側吻合し、そこから送血 | ― | 外科的。長期化やPAD例で選択されることがある |
表:日常的に行われているのは1行目で、現場で「逆挿し」と呼ばれるのもふつうこれを指す。足関節レベルからの逆行性(2行目)と混同されやすいが、別の手技で根拠も別。逆行性の臨床データは実質Spurlock 2012(n=36の後ろ向き症例集積、平均流量155.8 mL/min、6時間以内に留置できた58%では永続的な下肢障害なし)1報だけで、順行性との比較試験もメタ解析も存在しない。サイズはELSOが6〜8 Fr、日本のJCS 2023は4〜7 Frのシースと下限がずれている。太さを覚えるより100 mL/minという流量目標を基準にしたほうが実務的だ。
逆血が返ってこなくても、外しているとは限らない
日本語の資料には「送血カニューレより遠位で、かつ足側への穿刺になるのでバックフローが得られず、穿刺には熟練を要する」と書かれているものがある。この記述そのものの出典は追えなかったが、理屈は通っている――送血カニューレのシャフトが総大腿動脈を占拠していれば、その末梢は側副に頼るだけになり、しかもVA-ECMO中は拍動そのものが乏しい。
一方でAlfredのDPC挿入プロトコルは逆血を見ながら刺す前提で書かれており、「逆血が伴わないことはまれ」としている。矛盾しているように見えるが、おそらく穿刺点が送血カニューレからどれだけ離れているかの違いだ。近ければ側副の圧が残り、遠ざかるほど頼れなくなる。
結論は同じで、逆血だけを判断材料にしない。「返ってこないから入っていない」と判断して刺し直すのは、この場面では誤りになりうる。
だからエコーガイドが要る。Alfredが難所として挙げているのも逆血ではなく「総大腿動脈の分岐部をエコーで明瞭に同定すること」で、ここを見誤ると浅大腿動脈ではなく深大腿動脈に入る。留置したら膝窩動脈のドプラで流れが出たことを確認する――これはELSOが手順として書いている。
正直に言うと、RCTはない
DPCの有効性を支えているのはすべて観察研究とそのメタ解析で、ランダム化試験は存在しない。総説も「予防的に置くべきか、急性下肢虚血が出てから置くべきかについて、明確なエビデンスに基づく推奨はない」と明言している。
それでもELSOが「導入時に」と書くのは、虚血が起きてからでは間に合わないことがあるからだ。エビデンスの強さと推奨の強さが一致しない典型例として理解しておく。
下肢のモニタリング
ELSOは「組織酸素飽和度(NIRS)は50%以上、できれば60%以上、かつ左右差20%未満」を示している。介入の目安については、由来の異なる2つの観察研究の数字が並んでいるので、混ぜないでおきたい。
- rSO₂が40を下回る、またはベースラインから25%以上低下したら介入を要する事象とした――Wong 2012およびKim 2017。
- 臨床的に虚血を来した症例はいずれもrSO₂ 50%未満が4分以上持続しており、陽性的中率86%だった――Patton-Rivera 2018。同報告は「左右のrSO₂差15%未満」も挙げている。
どちらもBonicolini 2019の総説が引用している数字だが、別々の原著に由来する。この2つを「ガイドラインの基準」としてひとまとめに覚えると、原著に当たったときに話が合わなくなる。
足背動脈は「触る」のではなく「当てる」
VA-ECMO中は拍動が乏しい(あるいは無い)ため、触診での足背動脈の評価は当てにならない。後脛骨動脈や足背動脈の収縮期最高血流速度をドプラで追うのが正しい。NIRSと組み合わせる。
7その他の合併症
- 出血・血管損傷:後腹膜血腫・仮性動脈瘤・動静脈瘻。カニューレ留置部の出血はELSOレジストリで12.5%。仮性動脈瘤や動静脈瘻の頻度については、信頼できる数字を示した資料を見つけられなかった――「数%」と書いてある記事を見たら出典を確かめたほうがいい。
- 下肢虚血の頻度は資料によって大きく違う:Simons 2024は10〜30%、Bonicolini 2019は「reported incidence ranging from 10 to 70%」とし、同時に「この領域のデータは極めて断片的で、明確な推奨はない」と書いている。ひとつの数字を覚えるより、報告によってこれだけ振れるという事実のほうが臨床的に正しい理解だ。
- 感染:培養陽性の感染はレジストリで7.6%。刺入部管理を。
- カニューレ位置異常:脱血不良・再循環・送血の向き不良。挿入後だけでなく、体位変換や搬送のあとにも確認する。
- 抜去後の深部静脈血栓:VVガイドラインは「太すぎるカニューレは静脈うっ滞・血管損傷・DVTを来しうるが、適切なサイズでもDVTは起こる」と述べている。抜去後のスクリーニングは見落とされやすい。
なお末梢VAでは、カニュレーションの構成そのものがdifferential hypoxiaとLV過膨張を生む。前者の監視は右橈骨動脈と右上半身のパルスオキシメトリ(→②)、後者は胸部X線の肺水腫・脈圧5〜10 mmHg未満・左室のもやもやエコー・大動脈弁が開かずLVが拡張が揃えば直ちに介入、というのがELSOの基準だ(→⑦)。
8やりがちな失敗とTake home
| 1 「脱血の先端は右房近く」で丸暗記する | VVはIVC/RA接合部の“手前”、VAはSVC/RA接合部。VVでRAまで進めると再循環が増える。 |
| 2 Frの数字だけでカニューレを選ぶ | 抵抗は長さと内径で決まる(半径の4乗に反比例)。圧-流量曲線を見る。 |
| 3 脱血を細くして流量が出ない | 脱血は太く。細いと陰圧が深くなり溶血(→③)。 |
| 4 末梢VAで下肢を触診だけで診る | 拍動が乏しく当てにならない。ドプラ+NIRS(50%以上・左右差20%未満)。 |
| 5 DPCを「虚血が出てから」にする | ELSOは導入時の留置を推奨。虚血が出てからでは間に合わないことがある。 |
| 6 DPCで逆血が出ないから刺し直す | 送血カニューレの末梢は側副頼みで拍動も乏しい。逆血ではなくエコーで判断する。 |
| 7 ダイレータ前にワイヤー位置を確認しない | 右室穿孔はしばしば致死的。ダイレータごとに確認する。 |
| 8 送血カニューレを太くしすぎる | 20 Fr超は下肢虚血の危険因子。事前に総大腿動脈を計測する。 |
| 9 中枢VAのほうが安全だと思う | ELSOは末梢のほうが予後良好で望ましいとしている。 |
Take home
- 脱血の太さが流量を規定する。ただしFrは外径で、効くのは内径と長さ
- VVは大腿脱血-内頸送血が第一選択。大腿-大腿は再循環で第二選択、二腔は離床のため
- VA末梢が基本。ELSOは中枢より末梢を望ましいとしている
- 先端はVV=IVC/RA接合部の手前、VA=SVC/RA接合部。VVは15 cm離し三尖弁へ向ける
- ワイヤーはダイレータごとに確認。細いカテーテルで位置を確かめてから拡張する
- 末梢VAの下肢虚血は10〜30%(報告により10〜70%と幅がある)。DPCは導入時に6〜8 Fr・100 mL/min以上
- DPCは送血カニューレより末梢を足側へ。逆血は当てにならないのでエコーで確認する
- 下肢はドプラとNIRS(50%以上・できれば60%・左右差20%未満)で監視する
- 大腿が使えなければ右鎖骨下。頸動脈は最終手段で、日本のガイドラインには載っていない
参考文献
- ELSO Guidelines for Adult Respiratory Failure, v1.4. August 2017.(大腿-内頸の位置づけ、カニューレ径23-31 Fr、ワイヤー確認)
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本呼吸療法医学会/ECMOnet:COVID-19に対するECMO. 日集中医誌 2020;27:6.(体表面積別のカニューレサイズ表)
- 青景聡之, 竹田晋浩ほか:日本のPCPS用システムをECMOに転用するとカニューレ・回路チューブ径が細く十分な流量が得られない、という指摘。
- Lindholm JA. Cannulation for veno-venous extracorporeal membrane oxygenation. J Thorac Dis.(抵抗=長さに比例・半径の4乗に反比例。ELSOの記載ではない)
- ELSO General Guidelines for all ECLS Cases, v1.4. August 2017.
- Tonna JE, et al. Management of Adult Patients Supported with Venovenous ECMO: ELSO Guideline. ASAIO J. 2021.(構成の比較、二腔カニューレの利点と欠点、穿孔の警告、抜去後DVT)
- Lorusso R, et al. ELSO Interim Guidelines for Venoarterial ECMO in Adult Cardiac Patients. ASAIO J. 2021;67:827-844.(末梢優先、送血15-17 Fr、DPC 6-8 Fr・100 mL/min、NIRS基準、Table 11のレジストリ合併症率。冒頭で「必ずしもコンセンサス推奨ではない」と明記)
- Pavlushkov E, Berman M, Valchanov K. Cannulation techniques for extracorporeal life support. Ann Transl Med. 2017;5:70.(流量は脱血側で制限される)
- Banfi C, et al. Veno-venous / Veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: cannulation techniques. J Thorac Dis. 2016.(先端位置、15 cm、二腔カニューレの流量)
- Bonicolini E, et al. Limb ischemia in peripheral veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: a narrative review. Crit Care. 2019;23:266.(危険因子、rSO₂の介入閾値、予防的留置のエビデンス欠如)
- Juo YY, et al. Efficacy of distal perfusion cannulae in preventing limb ischemia during extracorporeal membrane oxygenation: a systematic review and meta-analysis. Artif Organs. 2017;41:E263-E273.(9.7% vs 25.4%、RR 0.41、95%CI 0.26-0.65。22件すべて後ろ向き研究)
- Wong JK, et al. Artif Organs. 2012;36:659-667./Kim DJ, et al. ASAIO J. 2017;63:613-617.(rSO₂ 40未満・ベースラインから25%低下)
- Patton-Rivera K, et al. Using near-infrared reflectance spectroscopy (NIRS) to assess distal-limb perfusion on venoarterial (V-A) ECMO patients with femoral cannulation. Perfusion. 2018.(rSO₂ 50%未満が4分以上、陽性的中率86%)
- Simons J, et al. Evolution of distal limb perfusion management in adult peripheral venoarterial ECMO. Perfusion. 2024.(現代の頻度10-30%、15-17 Frで虚血が少ない、逆行性は順行性が不可能な場合の代替)
- Madershahian N, et al. A simple technique of distal limb perfusion during prolonged femoro-femoral cannulation. J Card Surg. 2006;21:168-169.(送血カニューレより末梢の浅大腿動脈へ経皮的に順行性シース)
- Spurlock DJ, et al. A simple technique to prevent limb ischemia during veno-arterial ECMO using the femoral artery: the posterior tibial approach. Perfusion. 2012;27:141-145.(逆行性遠位灌流、n=36、平均流量155.8 mL/min)
- Alfred ECMO Guideline: Distal perfusion cannula.(穿刺手順、総大腿動脈分岐部の同定が難所)
- 2023年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン フォーカスアップデート版 PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作.(4〜7 Frシース、右鎖骨下動脈を第一選択、頸動脈の記載なし)
- Chamogeorgakis T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2013.(腋窩81/大腿166/中枢61例。同側上肢の過灌流症候群24.7%)
