循環器

ECMO入門⑨ 抗凝固・出血/血栓・合併症と日常管理

ECMOの抗凝固には、研修医が期待するような正解がない。ELSOの抗凝固ガイドラインは「必ずしもコンセンサス推奨ではない」と自ら断り、薬もモニタリング法も1つに絞っていない。ACT・aPTT・抗Xa活性は同じ血液で別々のことを言い、不一致は46%にのぼる。さらに日本にはナファモスタットという海外にほぼ存在しない選択肢があり、輸血の目標値も国際的な潮流と食い違っている。本章(ECMO入門⑨)は、その混乱を混乱のまま整理する。

この記事の芯

ELSO 2021抗凝固ガイドラインは、抄録の全文が「必ずしもコンセンサス推奨ではない」というディスクレーマーで、好ましい抗凝固薬もモニタリング戦略も指定していない。ELSOを引用する二次文献どうしでもACTの目標が180〜200と180〜220で揃わない。「ELSOの目標値はACT ○○」と一言で言える構造にはなっていない(本稿ではELSO 2021の本文そのものは直接確認できていない)。

そして近年、「ヘパリンは必須」という前提が崩れつつある。低用量・無抗凝固のメタ解析では出血が OR 0.49と減り、血栓は増えなかった。ただしRCTはない。

この記事でわかること

  • ELSOは薬もモニタリング法も1つに絞っていない。「必ずしもコンセンサス推奨ではない」と自ら断っている
  • ACT・aPTT・抗Xaは相関が乏しく不一致46%。目標域に入っていたのは抗Xa 44%、aPTT 15%
  • 低用量/無抗凝固で出血 OR 0.49(0.35〜0.67)、血栓は増えず、死亡も変わらない
  • HITは疑いが15.9%に対し確定は4.2%。免疫測定だけで診断すると14.5%と過剰診断になる
  • ビバリルジンのRCTはない。観察研究のメタ解析どうしで結論が食い違っている
  • ナファモスタットもアルガトロバンも、日本の添付文書上ECMOへの使用は適応外
  • VAは虚血性脳卒中が多く、VVは頭蓋内出血が多い。VVでは出血のほうが死亡と強く関連
  • 日本のECMOテキストのHb 12〜14 g/dLは、国際的な潮流(7 g/dL)と大きくずれている

1ELSOは1つに絞っていない

ECMOの回路は異物だ。血液が触れれば凝固系が動く。だから抗凝固が要る――という理屈は正しいのだが、ではどの薬を、どの検査で、どこを目標にという段になると、ガイドラインは沈黙する。

現行のELSO抗凝固ガイドラインは2021年版(McMichaelら、ASAIO J 2022)。抄録全体がディスクレーマーになっていて、逐語で「これらのガイドラインは、体外循環(ECLS、ECMO)において有用かつ安全な実践と考えられるものを記述したものであるが、必ずしもコンセンサス推奨ではない」とある。

「ELSOの目標値」と一言で言えない理由

米国集中治療医学会(SCCM)の解説記事は「ELSOはECMO患者の大半に抗凝固を推奨するが、好ましい抗凝固薬やモニタリング戦略を提示していない」と書いている。一方で、ELSO 2021を引いた総説の中には「低濃度カートリッジによるACT 180〜200秒がgold standardとされる」「ヘパリン使用時には抗Xaの目標値も示唆している」と、本文に数値の記載があるかのように書くものもある。本稿ではELSO 2021の本文を直接確認できておらず、二次文献の記述が揃っていない――それ自体が、この分野に単一の正解がないことの反映だと思う。

だから研修医が「ELSOではACT 180〜220です」と言うと、指導医によっては「どこに書いてある?」と返されることになる。正確には「ELSOは一つの数字に絞っていないので、各施設のプロトコルに従う」が答えだ。

23つの検査 ― どれも合わない

図1:ACT・aPTT・抗Xa活性

検査 使い方 弱点・特徴
ACT ベッドサイドで測れる。1〜2時間ごと 機器間で標準化されていない。ヘマトクリット・血液希釈・凝固障害の影響を受け、ヘパリン活性と直接相関しない
aPTT 検査室で測る。6〜12時間ごと 溶血で短縮し、ビリルビン上昇で延長する。検査室で測るぶん結果が返るまでに時間がかかる
抗Xa活性 検査室。ヘパリンの作用を直接見る 投与ヘパリン量との相関が最も良い。ただし溶血とビリルビン上昇で低下する

表:成人ECMO 85例・同時採血671クラスタを調べた研究では、3つの検査の相関は乏しく、不一致は46%だった。しかも目標域に入っていたのはR時間21%、aPTT 15%、抗Xa活性44%。同じ患者・同じ時点の血液で、3つの検査が別々のことを言う。これがECMO抗凝固の現実だ。

相関の悪さは繰り返し報告されている。新生児・小児ECMO 69例の研究では、抗Xa活性とヘパリン投与量の相関係数はρ=0.1、aPTTとヘパリン量はρ=0.26、抗XaとaPTT同士でもρ=0.38。いずれも統計学的には有意だが、臨床的には「ほとんど相関していない」水準だ。この研究の結論は「ECMO中は単一の検査より複数の抗凝固検査のほうが優れているかもしれない」。

成人85例・671の同時採血クラスタを調べた研究では不一致46%。しかも目標域に入っていたのはR時間21%、aPTT 15%、抗Xa活性44%で、そもそもどの検査でも目標に収まっていない時間のほうが長い。

ECMO特有の交絡 ― 溶血とビリルビン

ECMO患者では検査そのものが歪む。逐語で「遊離ヘモグロビンの上昇はaPTTと抗Xa活性を低下させ、ビリルビンの上昇はaPTTを延長させ抗Xa活性を低下させる」。

つまり溶血している患者では、抗凝固が効いていないように見える(aPTTが短い)のに抗Xaも低く出る。ここでヘパリンを増やすと出血に向かう。ECMO中の凝固検査は、値そのものよりその患者の溶血とビリルビンの状況を踏まえて読む必要がある。

ヘパリン投与量との相関という点では抗Xa活性が最も良いと複数の資料が述べている。VV-ECMO 254例の比較では、抗Xa管理群のほうがaPTT比管理群より変動が小さく(変動指標 0.21 vs 1.61)、ヘパリン用量の調整回数・輸血・回路交換が減っていた。

3目標値はいくつか ― 資料によって違う

図2:抗凝固の目標値(出典別)

出典 目標値 備考
ELSO 2021(本体) 「必ずしもコンセンサス推奨ではない」と抄録で断っている SCCMの解説は「好ましい抗凝固薬もモニタリング戦略も提示していない」とする。本文は本稿で未確認
ELSO 2021を引用した総説A(JCM 2023) ACT 180〜200秒(低濃度カートリッジ)をgold standardと記載 ACTを1〜2時間ごと、aPTTを6〜12時間ごと
ELSO 2021を引用した総説B ACT 180〜220秒、ヘパリン 50〜100 U/kgボーラス+20〜50 U/kg/時 同じガイドラインを引いて数字が違う
実臨床の一般的な目標(2025年の総説) 抗Xa 0.3〜0.7 U/mL、aPTT 50〜90秒、ACT 180〜220秒 アンチトロンビンは50〜70%を下回れば補充を考慮
日本の施設(JaSECT調査、6施設) aPTT 40〜60秒台、ACT 150〜180秒前後 施設間のばらつきが大きく、ELSO想定より低め
日本呼吸療法医学会のECMOテキスト ACT 180〜220、aPTTは正常の1.5〜2倍 止血できない出血時はACT 140〜160秒まで下げざるを得ない

表:同じELSO 2021を引用した総説どうしで、ACTの目標が180〜200と180〜220に食い違う。ELSO本体を直接確認できていないので断定はしないが、少なくとも「ELSOの数字」として一つに収束していないことは確かだ。ELSOの原文は冒頭で「これらのガイドラインは、体外循環において有用かつ安全な実践と考えられるものを記述したものだが、必ずしもコンセンサス推奨ではない」と断っている。「ELSOが定めた目標値」を一つの数字で語るのは避けたほうがいい。

日本の現場はもっと低い

日本体外循環技術医学会の補助循環部会がCOVID-19期にまとめた施設アンケートには、各施設の実際の目標値がそのまま載っている。A病院「APTT:60前後」、B病院「APTT:40台 ACT:180sec前後」、C病院「APTT:45前後 ACT:150sec前後」、D病院「APTT:40-50台 ACT:180sec前後」、E病院「APTT:45-60台 ACT:160sec前後」、F病院「APPT:45-60前後(6h毎) ACT:160-170sec前後(24h)」。

ACTの目標が150〜180秒で、二次文献が示すELSO想定(180〜220)より一段低い。しかも施設間でこれだけ違う。これが日本の実態で、「うちのプロトコルは何か」を知ることが、教科書の数字を覚えることより先に来る。

4抗凝固を止めるという選択肢

図3:抗凝固なし/低用量のデータ

出典 対象 結果
Olson 2021(系統的レビュー) 34研究201例。抗凝固なしの期間は中央値4.75日 回路血栓 13.4%、患者側の血栓 9.5%、出血 32.8%(大出血27.9%)、死亡19%
Kurihara 2020(VV、単施設) 全身抗凝固あり38例 → その後なし36例(DVT予防の皮下ヘパリンのみ) 消化管出血 28.9% vs 5.6%(P<.001)と抗凝固群で多い。人工肺の機能不全も28.9% vs 11.1%(P=.02)で抗凝固群に多かった。回路血栓は両群ともゼロ。生存に差なし
低/無ヘパリンのメタ解析 11研究958例 出血 OR 0.49(95%CI 0.35〜0.67)、P<0.0001と有意に減少。血栓 OR 1.00(0.65〜1.54)で差なし。死亡 OR 0.90(0.67〜1.21)
実臨床の頻度(2025年の総説) ― ECMOの約20%は抗凝固なしで開始されている。全日数の約50%が無抗凝固で維持されていた

表:「ECMOにヘパリンは必須」という前提が、この10年で崩れつつある。とくにKurihara 2020は示唆的で、抗凝固を止めた群のほうが消化管出血も人工肺の機能不全も少なく、回路血栓は両群ともゼロだった。ただしRCTは存在しない。すべて観察研究であり、抗凝固を止められる患者はそもそも状態が違う可能性がある。

この10年で最も変わったのがここだ。かつて「ヘパリンの投与は必須である」(日本呼吸療法医学会のECMOテキストの表現)とされていたものが、いまは選択肢のひとつになっている。

Kurihara 2020が示したこと

この単施設の研究は時系列比較で、先行する38例に低用量の全身抗凝固(ACT 160〜180秒またはaPTT 50〜70秒)、後続の36例には全身抗凝固なし(DVT予防の皮下ヘパリン5,000単位を8時間ごと)という設計だった。

結果は直感に反する。消化管出血は抗凝固群28.9%に対し無抗凝固群5.6%(P<.001)、人工肺の機能不全も28.9% vs 11.1%(P=.02)と抗凝固群のほうが多かった。輸血を受けた患者の割合も赤血球94.7% vs 55.5%、新鮮凍結血漿60.5% vs 16.6%、血小板84.2% vs 27.7%と、すべて抗凝固群で多い。

そして決定的なのが「両群とも、ECMOの全期間を通じて回路血栓は生じなかった」。生存率にも差はなかった。

ただしこれは同一施設の前後比較であり、ランダム化されていない。後続群のほうが管理に習熟していた可能性は排除できない。

11研究958例を統合したメタ解析では、低用量/無ヘパリンで出血が OR 0.49(95%CI 0.35〜0.67)、P<0.0001と有意に減少し、血栓イベントは OR 1.00(0.65〜1.54)と全く変わらず、死亡も OR 0.90(0.67〜1.21)で差がなかった。

2025年の総説が引く観察コホートではECMOの約20%が抗凝固なしで開始され、全日数の約50%が無抗凝固で維持されていた。ただし念のため繰り返すと、この領域にRCTは存在しない。

5HIT ― 疑い15.9%、確定4.2%

19研究を選択したメタ解析(頻度は18研究、疑い例は12研究の統合)によると、ECMO患者におけるHITの頻度は4.2%(95%CI 2.7〜5.6)。一方でHITが疑われた患者は15.9%(9.0〜22.8)にのぼる。

免疫測定だけで診断すると5倍以上に膨らむ

同じメタ解析の最も重要な所見がこれだ。逐語で「診断法が機能的アッセイであった研究におけるECMO患者のHITの頻度は2.7%であり、免疫測定で診断された研究における頻度(14.5%)より有意に低かった」。

つまり抗PF4抗体だけでHITと診断すると、実に5倍以上に過剰診断する。ECMO患者は血小板が下がる理由をいくらでも持っている(希釈、消費、回路での破壊、感染)ので、抗体陽性がそのままHITにならない。

確認試験としてはセロトニン放出試験が多くの研究で用いられている。抗体陽性で即ヘパリン中止・アルガトロバン開始、ではなく、機能的アッセイまで追うのが原則だ。

確定したHIT患者の転帰は厳しい。血栓イベント45.5%、出血イベント50.1%、死亡46.6%。ECMO患者でのHITは、それ自体が重症度のマーカーでもある。

なおECMO集団における4Tsスコアの感度・特異度を検証した数値は見つけられなかった。4Tsは一般病棟で作られたスコアで、ECMO患者にそのまま当てはまるかは検証されていない、と理解しておくのが正確だ。

6代替薬 ― ビバリルジンとアルガトロバン

図4:ヘパリン以外の抗凝固薬

出典 主要結果 補足
ビバリルジン vs ヘパリン(6研究のメタ解析) 血栓塞栓 OR 0.61(0.38〜0.99)、回路血栓 OR 0.51(0.32〜0.80) 死亡 OR 0.75(0.52〜1.09)、大出血 OR 0.67(0.25〜1.81)でいずれも有意差なし
2025年の系統的レビュー(21研究2,775例、対照はすべてヘパリン) 直接トロンビン阻害薬:血栓塞栓 OR 0.73(0.53〜0.99)、出血 OR 0.51(0.39〜0.67)、死亡 OR 0.70(0.52〜0.94) 低分子ヘパリン:血栓塞栓 OR 0.26(0.13〜0.55)、出血 OR 0.46(0.25〜0.87)、死亡は有意差なし
同(抗凝固なし) 出血 OR 0.17(0.07〜0.38) 信頼区間が広く解釈は限定的、と著者自身が注記
同(ナファモスタット) 有意差なし 異質性が高く、信頼区間が広い
VA-ECMOのメタ解析(159研究21,942例) ヘパリン・ビバリルジン・抗凝固なしで大出血も血栓も同程度 上の結論と食い違う。決着していない

表:ECMOにおけるビバリルジン vs ヘパリンのランダム化比較試験は存在しない。上に並ぶのはすべて観察研究のメタ解析で、しかも結論が一致していない。2025年の大規模レビューは「これらの所見は、未分画ヘパリンを既定の抗凝固薬とすることの再考を支持する」とまで書いているが、VA-ECMOに絞ったメタ解析は「差はない」としている。現時点で「ヘパリンをやめてビバリルジンへ」と言い切れる状況ではない。

モニタリングの目標としては、ビバリルジンはaPTT比1.5〜2.5、アルガトロバンはaPTT 50〜70秒またはACT 150〜230秒という記載がある。アルガトロバンの開始量については「臓器機能が正常な患者では0.2 μg/kg/分から開始し、肝機能障害のある患者では減量する」という総説の記述がある。

日本ではアルガトロバンのECMO使用は適応外

ここは日本で書く記事として明記しておきたい。アルガトロバンの添付文書上の効能・効果は、逐語で「下記患者における血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析)」――括弧書きで血液透析に限定され、対象も先天性アンチトロンビンIII欠乏・アンチトロンビンIII低下・HIT II型の患者に限られている。

つまりECMO回路の抗凝固としてアルガトロバンを使うことは、添付文書上は適応外使用にあたる。ただし「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)II型における血栓症の発症抑制」は適応内で、用法は「通常、成人にアルガトロバン水和物として0.7 μg/kg/分より点滴静注を開始し、持続投与する」。HIT患者でECMOを回している場合、実務上はこちらの適応を根拠に全身投与する形になる。

この整理は添付文書の文言から直接導けるものだが、「ECMOへの使用が適応外である」と明言した公的通知は見つけられなかった。

7日本固有 ― ナファモスタット

ナファモスタットメシル酸塩(フサン)は、日本・韓国・中国でのみ実質的に使われている抗凝固薬で、ELSOのガイドラインにも欧米の総説にもほぼ登場しない。日本で研修する以上、知らないでは済まない選択肢だ。

なぜ出血リスクの高い患者に選ばれるのか

理由は薬物動態にある。全身での半減期は約8分。分布相が1〜4分、消失相が23.1〜120分と報告されている。

この超短時間作用のおかげで、回路の直前(ポンプ前の専用三方活栓)から投与すれば、回路内では効いて、患者の体内に届く頃には分解されているという「回路限局的抗凝固」に近い運用ができる。出血している患者、頭蓋内出血のある患者で選ばれるのはこのためだ。

報告されている用量は0.14〜0.98 mg/kg/時、開始は15 mg/時あたり。目標aPTTは40〜80秒(前値の1.5〜2.5倍)とされる。

エビデンスの水準は正直に書く。系統的レビュー(Artificial Organs 2022)は11の後ろ向き研究を集めたもので、うちヘパリン対照群があるのは3研究のみ。出血・血栓合併症については結果が一致せず、結論は「ECMOにおけるこのアプローチの最適な位置づけを確立するには前向き研究が必要である」。

比較的まとまった単施設データとしては韓国の報告がある。91回のECMO(87例)でナファモスタット68回(74.7%)、ヘパリン22回(24.2%)。出血はナファモスタット群38.2%、ヘパリン群72.7%(P=0.005)とナファモスタット群で少なかった。ただし高カリウム血症が17.6%に生じている。

副作用と、適応外であること

ナファモスタットに特徴的な副作用が高カリウム血症で、系統的レビューでは治療例の15〜18%に生じたと報告されている(報告があったのは2研究)。唯一記録された副作用がこれだった、とも書かれている。ECMO中に原因不明の高K血症を見たら、ナファモスタットを思い出す。

そして適応の問題。添付文書の効能・効果は逐語で「出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス)」。括弧書きで血液透析とプラスマフェレーシスに限定されており、ECMO/PCPSは含まれていない。アルガトロバンと同じく、日本でもECMOへの使用は適応外使用にあたる。

使用実態としては、日本血栓止血学会のCOVID-19関連血栓症アンケート(抗凝固療法を実施した893症例)でナファモスタット234例(26.2%)という数字がある。ECMO症例に限った内訳ではないが、日本で4分の1を超える症例に使われていたことは分かる。

なお2025年の大規模な系統的レビュー(21研究2,775例)はナファモスタットを独立した戦略として解析しているが、有意差は示されず、異質性が高く解釈が限定されると結論している。

8輸血 ― 日本と海外の最大のズレ

この記事でいちばん実務が変わりうるのがここだと思う。

日本のテキストは Hb 12〜14 g/dL と書いている

日本呼吸療法医学会のECMOテキストには、逐語で「血中ヘモグロビン濃度は12〜14 g/dlに維持するように赤血球輸血を行う」とある。あわせて「血小板数は8万/μl以上、フィブリノゲン値は100 mg/dl以上」「ATIIIが70%以上となるように補充を行う」。

一方、国際的な流れは逆を向いている。ELSOの2024年輸血ポジションステートメントは、「Hbが7 g/dLを超える患者では、ECMO中に輸血するかどうかの判断をHbの単一の値だけに頼ることはできない」としている。VV-ECMOの観察研究PROTECMOでは「赤血球輸血は死亡リスクの低下と関連したが、それはヘモグロビン濃度が7 g/dL未満の患者に投与された場合に限られた」。

ELSOの旧版がヘマトクリット40%超、出血患者では血小板10万、フィブリノゲン250〜300 mg/dLという明らかにliberalな数字を掲げていた(二次文献の要約による。ある総説は「以前のガイドラインはHb 12〜14 g/dLの正常値維持を推奨していた」とも書いている)ことを思えば、これは国際的にも大きな方針転換だ。日本のテキストは旧いELSOの系譜にあると理解しておくのが正確だと思う。

ただし公平のために書いておくと、一般ICUの制限的輸血のRCT(TRICCやTRISSなど)はECMO患者を含んでいない。Olekら(Ann Blood 2023)は逐語で「ICUや心臓手術後の輸血必要量に焦点を当てたランダム化比較試験は、ECMO患者を含んでいなかった」、Rajsicら(Crit Care 2025)は「一般に受け入れられている輸血閾値がECMO患者に当てはまることを示す科学的根拠はない」と書いている。

つまりどちらの数字にも強い根拠はない。ただ、方向としては国際的に7 g/dL側へ動いており、日本のテキストの12〜14はその流れからかなり離れている、ということは知っておいたほうがいい。VA-ECMOでは高Hbのほうが酸素運搬に有利という理屈もあるので、VVとVAで分けて考える余地もある。

9合併症の全体像

図5:ECMOの主な合併症と頻度

合併症 頻度 出典と注記
虚血性脳卒中 VA 3.2%/VV 1.4% ELSOレジストリ。VAは33,041例(2012-2021、ECPR除く)、VVは別研究の15,872例(2013-2019)
出血性脳卒中 VA 1.4%/VV 3.1% VAは虚血、VVは出血が多いという左右反転
出血または血栓イベント(VV) 40.2%が1回以上 ELSOレジストリ7,579例。うち血栓が54.9%
大出血(VA) 40%(95%CI 36〜44) 159研究21,942例のメタ解析。最多部位は胸腔内
血栓合併症(VA) 17%(14〜19) 最多は下肢虚血
急性腎障害 62.8%/腎代替療法 44.9% 41コホート10,282例のメタ解析。RRTを要した例の死亡 OR 3.73(2.87〜4.85)
院内感染 26%(14〜38) 30研究4,733例。感染例は生存率が低い(リスク比0.80)
溶血(VV) 報告により0〜41%、大規模研究では10%未満 遊離Hb 50 mg/dL超で定義するものが多い。ポンプヘッド血栓の報告例は全例で溶血を伴っていた

表:ひとつだけ覚えるなら「VAは虚血性脳卒中が多く、VVは頭蓋内出血が多い」という反転だ。そしてVVの解析では出血イベントのほうが血栓イベントより死亡と強く関連していた(OR 1.69 vs 1.23)。個別に見ると頭蓋内出血が OR 5.71、虚血性脳卒中が OR 4.50と突出している。抗凝固の議論が「出血をどこまで許すか」に収束するのは、この構造による。

左室減圧を併用すると出血が跳ね上がる

VA-ECMOのメタ解析には、⑦と関わる所見がある。逐語で「機械的アンローディングは大出血の高い頻度(60%、95%CI 43〜77)および虚血性脳卒中(13%、95%CI 7〜19)と関連していた」。

VA全体でプールした大出血が40%なのに対し、減圧併用のサブグループでは60%。⑦で見たSchrageの数字(重症出血38.4% vs 17.9%)と方向が一致している。減圧の適応を考えるときは、この数字を天秤に載せる。

感染については危険因子も定量化されている。免疫抑制 OR 2.21、施設間搬送 OR 2.24、ECMO前の感染 OR 2.54、SOFAスコア1点ごと OR 1.13、ECMO期間1日ごと OR 1.10、持続的腎代替療法 OR 2.18。期間が延びるほど感染するという当たり前の関係が、そのまま「早く離脱する」動機になる。

10日常管理 ― 感染・栄養・リハビリ

以下はELSOの感染症タスクフォースの勧告を引いたエビデンス要約(Front Med 2026)の記述による。

  • 予防的抗菌薬はルーチンには推奨されない。逐語で「ECMO導入時のルーチンの予防的抗菌薬は推奨されない。術後患者では、手技の種類と施設の指針に従って手術予防投与を行う」。
  • 血液培養もルーチンの毎日ではなく適応ベースで。「血液培養は適応に基づいて行うべきであり、ルーチンの毎日ではない」。
  • 刺入部は透明ドレッシングで目視監視。カテーテルとドレッシング/縫合の状態を毎日評価する。
  • 回路の開放は最小限に。アクセスが必要なときはニードルレスコネクタを使う。
  • 不要な中心静脈カテーテルや侵襲デバイスはできるだけ早く抜く。

栄養とリハビリについては⑤で扱った内容がそのまま当てはまる。要点だけ再掲すると、経腸栄養は早期に、ただし最初の3日はエネルギーも蛋白も目標の70%未満、蛋白は1.3 g/kg/日を超えない、エネルギー目標は25 kcal/kg/日の体重換算式(ELSO 2025コンセンサス)。リハビリはELSOが2024年にガイドラインを出しており、安全性の観察データは良好だが、予後改善を示したRCTはない。

11やりがちな失敗とTake home

1 「ELSOの目標値はACT 180〜220」と言い切る ELSOを引く二次文献間でも180〜200と180〜220で食い違う。自施設のプロトコルで語る。
2 1つの検査だけで抗凝固を管理する 3つの検査の不一致は46%。目標域に入っているのは抗Xaでも44%。
3 溶血している患者でaPTTを額面どおり読む 溶血はaPTTを短縮させ抗Xaも下げる。ここでヘパリンを増やすと出血に向かう。
4 抗PF4抗体陽性で即HITと診断する 免疫測定のみだと14.5%、機能的アッセイなら2.7%。5倍以上の過剰診断になる。
5 ヘパリンは必須だと思い込む 低用量/無抗凝固で出血 OR 0.49、血栓は増えない。ただしRCTはない。
6 アルガトロバン・ナファモスタットを適応内と思う いずれも日本の添付文書上、ECMO回路の抗凝固は適応外。
7 ナファモスタット中の高K血症を見逃す 15〜18%に生じる特徴的な副作用。
8 Hb 12〜14 g/dLを目標に輸血し続ける 国際的な潮流は7 g/dL側。日本のテキストは旧いELSOの系譜にある。
9 ECMO期間を延ばすことのコストを数えない 感染はECMO 1日ごとに OR 1.10で増える(異質性は高く、目安として)。

Take home

  1. ELSOは薬もモニタリング法も1つに絞っていない。まず自施設のプロトコルを知る
  2. ACT・aPTT・抗Xaは同じ血液で別々のことを言う。不一致46%。単一の検査に頼らない
  3. 溶血とビリルビンが凝固検査を歪める。ECMOでは値をそのまま読まない
  4. 低用量/無抗凝固は出血を減らし血栓を増やさない(OR 0.49/1.00)。ただしRCTはない
  5. HITは疑い15.9%・確定4.2%。免疫測定だけで診断しない
  6. アルガトロバンもナファモスタットも、日本ではECMOへの使用は添付文書上の適応外
  7. ナファモスタットは半減期約8分。出血例の選択肢だが高K血症が15〜18%
  8. VAは虚血性脳卒中、VVは頭蓋内出血が多い。VVでは出血のほうが死亡と強く関連する
  9. 輸血はHb 7 g/dLが国際的な分水嶺になりつつある。日本のテキストの12〜14とは開きがある
参考文献
  • McMichael ABV, et al. 2021 ELSO Adult and Pediatric Anticoagulation Guidelines. ASAIO J. 2022.(「必ずしもコンセンサス推奨ではない」)
  • Nunez JI, et al. Bleeding and thrombotic events in adults supported with venovenous extracorporeal membrane oxygenation: an ELSO registry analysis. Intensive Care Med. 2022.(7,579例、BTE 40.2%)
  • Anticoagulation and associated complications in veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation in adult patients: A systematic review and meta-analysis. 2024.(159研究21,942例、大出血40%、血栓17%)
  • Nicholson C, Lantry J. ECMO and Coagulation Test Correlation. SCCM blog. 2025.(ELSOは好ましい抗凝固薬もモニタリング戦略も提示していない)
  • JCM 2023(Update on Anticoagulation Strategies in Patients with ECMO)/Frontiers Cardiovasc Med 2022/JHLT Open 2025(Anticoagulation in ECMO: narrative review)/Jung C, et al. Front Med 2025.(ELSOを引く二次文献。ACT 180-200/180-220、抗Xa 0.3-0.7、aPTT 50-90)
  • Graz単施設コホート(成人ECMO 85例・671クラスタ). 2025.(3検査の不一致46%)
  • VV-ECMO 254例、抗Xa vs aPTT比管理. ASAIO J.(変動指標0.21 vs 1.61)
  • Olson SR, et al. Thrombosis and Bleeding in Extracorporeal Membrane Oxygenation Without Anticoagulation: A Systematic Review. ASAIO J. 2021.(34研究201例)
  • Kurihara C, et al. Feasibility of Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation Without Systemic Anticoagulation. Ann Thorac Surg. 2020.(38例 vs 36例、回路血栓ゼロ)
  • Zhang T, et al. Low/no heparin anticoagulation vs standard anticoagulation in ECMO: meta-analysis. Front Med. 2026.(11研究958例、出血 OR 0.49)
  • Heparin-induced thrombocytopenia in extracorporeal membrane oxygenation-supported patients: a systematic review and meta-analysis. Thromb J. 2024.(確定4.2%、免疫測定14.5% vs 機能的2.7%)
  • Kido K, et al. Meta-Analysis Comparing Bivalirudin Versus Unfractionated Heparin in Adult Patients With Extracorporeal Membrane Oxygenation. J Pharm Pract. 2022.
  • Anticoagulation strategies in adult ECMO: systematic review and meta-analysis. 2025.(21研究2,775例、DTI・LMWH・無抗凝固・ナファモスタットの比較)
  • Han W, et al. Single-center experience of extracorporeal membrane oxygenation mainly anticoagulated with nafamostat mesilate. J Thorac Dis. 2019;11(7).(91回、出血38.2% vs 72.7%、高K血症17.6%)
  • Sanfilippo F, et al. Use of nafamostat mesilate for anticoagulation during extracorporeal membrane oxygenation: A systematic review. Artif Organs. 2022.(11の後ろ向き研究、高K血症15〜18%)
  • Ramanathan K, et al. Blood Transfusion During Extracorporeal Membrane Oxygenation: An ELSO Position Statement. ASAIO J. 2024;70:719-720.(Hb 7 g/dL超では単一の値に依存できない)
  • Martucci G, et al. Transfusion practice in patients receiving VV ECMO (PROTECMO): a prospective, multicentre, observational cohort study. Lancet Respir Med. 2023.(41施設604例)
  • Olek E, et al. Ann Blood. 2023./Rajsic S, Tonna JE, Shekar K. Crossing the line: blood transfusion thresholds in ECMO. Crit Care. 2025./Maldarelli M, et al. Ann Blood. 2022.(輸血閾値をめぐる総説)
  • Lee DH, et al. Pharmacokinetics/pharmacodynamics of nafamostat in ECMO. Front Pharmacol. 2025.(半減期約8分、0.14〜0.98 mg/kg/h)
  • Cho SM, et al. Crit Care Med. 2021.(VV-ECMO 15,872例の脳卒中)/Crit Care. 2023.(VA-ECMO 33,041例の脳卒中)
  • Thongprayoon C, et al. J Clin Med. 2019.(AKI 62.8%、RRT 44.9%)/Crit Care. 2024.(院内感染26%)/Front Public Health. 2026.(感染の危険因子)/Materne LA, et al. Int J Med Sci. 2021.(VV-ECMOの溶血)
  • Front Med. 2026.(ECMO感染予防のエビデンス要約:ルーチン予防的抗菌薬は推奨されない、等)
  • 日本体外循環技術医学会 学術委員会 補助循環部会:COVID-19に対するECMO管理(第3報)ECMOの管理について. 2020.(施設別のACT・APTT目標)
  • 青景聡之・竹田晋浩:日本呼吸療法医学会 ECMOプロジェクト テキスト.(ACT 180-220、Hb 12〜14 g/dL、血小板8万、フィブリノゲン100、ATIII 70%)
  • アルガトロバン注射液/注射用フサン ほか各添付文書.(体外循環の適応は血液透析・プラスマフェレーシスに限定)
  • 日本血栓止血学会:COVID-19関連血栓症アンケート調査の最終結果報告. 日本血栓止血学会誌 2021;32(3).(ナファモスタット26.2%)
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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