ECPRは、VA-ECMOを心停止に緊急適用したものだ(→①)。主要なランダム化試験は3つあり、ARRESTは陽性、Prague OHCAは主要評価項目では有意差なし(30日では有意)、INCEPTIONは陰性。この食い違いをどう読むかが、この治療を理解する鍵になる。手がかりは薬でも機種でもなく時間にある――ARRESTとPragueは約60分、INCEPTIONは74分。そして日本のSAVE-J IIは56分だった。本章(ECMO入門⑧)はその構造を一次資料で追う。
この記事の芯
ECPRは「治療」というより「システム」だ。同じ手技でも、崩壊からECMO流量確立まで60分で回せる体制と74分かかる体制では、別の治療になる。メタ解析でも施設の年間症例数が倍になるごとに死亡オッズが下がるという関係が示されている。
日本は救急外来でのカニュレーションが64.2%という独特の形をしていて、ヨーロッパのように心臓センターへ搬送してから回す設計とは違う。だからこそ時間が短い、という読み方ができる。
この記事でわかること
- ARREST:生存退院 7% vs 43%、優越性の事後確率0.9861で最初の中間解析で中止。ただし30例の単施設試験
- Prague OHCA:180日では有意差なし(P=.09)だが、30日では OR 1.99(1.11〜3.57)と有意
- INCEPTION:30日 20% vs 16%、有意差なし。ただしECPR群でECMO流量が確立したのは66%
- ARRESTとPragueは約60分、陰性のINCEPTIONは74分。ELSOの目標は「60分以内」(ただし起点の定義は試験ごとに違う)
- RCTのみのメタ解析では神経学的に良好な生存 OR 1.72(1.09〜2.70)、必要治療数9
- 施設の年間症例数が倍になるごとに死亡オッズが下がる(回帰係数 −0.17、P=0.030)
- SAVE-J II 1,644例:生存退院27.2%、神経学的に良好14.1%、救急外来でのカニュレーション64.2%
- ELSOの選択基準に乳酸やpHの閾値はない。ARRESTは来院後の中止基準として乳酸18超などを使っている
1ECPRとは何か
ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)は、従来のCPRで自己心拍が戻らない心停止に対して、CPRを続けながらVA-ECMOを確立することを指す。①で書いたとおり、これは新しい構成ではなくVAを心停止という状況に緊急適用したものだ。
目的は明確で、時間を買うこと。冠動脈を開ける、体温を管理する、原因を治す――そのための時間を、臓器が死ぬ前に確保する。だからECPRを回した先に「やること」がない症例には適応がない。ECMO自体は何も治さない。
ELSOが示す時間の感覚
ELSOのECPR暫定ガイドラインは、いつ考えるかを具体的に書いている。「通常の蘇生が奏功しない状態が10〜15分続いた時点でECPRを考慮すべき」「10〜20分の蘇生失敗の後にカニュレーションを開始するのは理にかなう」。
根拠として挙げているのが「難治性心停止が20分を超えると、通常CPRでの自己心拍再開と生存の確率は5%未満になる」という数字だ。20分という線は、ECPRを始める理由そのものになっている。
23つのRCT ― なぜ結論が割れたのか
図1:ECPRのランダム化比較試験
| 試験 | 対象・規模 | 主要結果 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| ARREST Lancet 2020 |
米国・単施設。難治性心室細動、3回のショックで反応なし、搬送30分以内。30例 | 生存退院 7%(1/15)vs 43%(6/14) リスク差 36.2%(95%信用区間 3.7〜59.2) |
ECMOの優越性の事後確率 0.9861で最初の中間解析で中止。単施設・少数 |
| Prague OHCA JAMA 2022 |
チェコ・単施設。目撃のある心原性と推定される心停止。256例 | 180日 CPC 1-2 31.5% vs 22.0% OR 1.63(0.93〜2.85)、P=.09 |
30日では30.6% vs 18.2%、OR 1.99(1.11〜3.57)、P=.02と有意。無益性の基準で中止 |
| INCEPTION NEJM 2023 |
オランダ・多施設・プラグマティック。18〜70歳、bystander CPRあり、初期は心室性不整脈。160例 | 30日 CPC 1-2 20% vs 16% OR 1.4(0.5〜3.5)、P=0.52 |
ECPR群70例のうちカニュレーションに至ったのは52例(74%)、ECMO流量が確立したのは46例(66%)。崩壊からECMO流量まで74分 |
ARREST(Lancet 2020)は難治性心室細動に絞った単施設のアダプティブ試験で、30例で止まった。生存退院は標準ACLS群が1/15(7%)、早期ECMO群が6/14(43%)、リスク差36.2%。事後確率が事前に決めた監視境界を超えたため、最初の中間解析で中止された。
Prague OHCA(JAMA 2022)は256例。主要評価項目である180日時点のCPC 1-2は31.5% vs 22.0%、OR 1.63(95%CI 0.93〜2.85)、P=.09で有意差に届かなかった。だが30日時点の神経学的回復は30.6% vs 18.2%、OR 1.99(1.11〜3.57)、P=.02と有意だった。中止は無益性の基準を満たしたためで、著者自身が「臨床的に意味のある差を検出するには検出力が不足していた可能性がある」と結論に書いている。
INCEPTIONは何が違ったのか
INCEPTION(NEJM 2023)はオランダの多施設・プラグマティック試験で、160例。30日のCPC 1-2は20% vs 16%、OR 1.4(0.5〜3.5)、P=0.52。
この試験を読むときの要点は2つある。ひとつはECPR群70例のうちカニュレーションに至ったのは52例(74%)、ECMO流量が確立したのは46例(66%)だったこと。もうひとつが時間で、崩壊からECMO流量確立まで74分(IQR 63〜87)と、ARRESTの59分、Pragueの61分より明らかに長い。
オランダの総説(Ali 2024、Neth Heart J)はこの差の理由をこう説明している。逐語で「INCEPTION試験では、施設あたりの症例数がARREST試験やPrague OHCA研究より実質的に少なく、すべての施設が現地の体外循環と蘇生の体制に基づく独自のECPRプロトコルを用いることが許されていた。これがtotal low-flow時間と院内low-flow時間の延長に反映されているようだ」。
つまりINCEPTIONが測ったのは「ECPRという手技の効果」ではなく「一般的な体制でECPRを提供したときの効果」だったとも読める。実用性を測る試験としては正しい設計で、だからこそ「体制がなければ効かない」という結論を支持する。
なお同試験には事前規定のper-protocol解析があり、カニュレーションまで60分超の例などを除外した81例では30日CPC 1-2が15% vs 9%、調整OR 1.9(0.4〜9.3)、P=0.393。ベイズ解析では何らかの利益がある事後確率84%、絶対リスク5%減少の事後確率61%と報告されている。
3時間 ― 60分という線
図2:崩壊からECMO流量確立までの時間
| 試験・資料 | 通報/崩壊からECMO確立まで(定義は試験ごとに異なる) | 結果 |
|---|---|---|
| ARREST | 平均59分(SD 28、911通報から) | 陽性 |
| Prague OHCA | 中央値61分(IQR 55〜70) | 30日で有意、180日(主要評価項目)で有意差なし |
| INCEPTION | 中央値74分(IQR 63〜87)、崩壊から | 陰性 |
| SAVE-J II(日本) | 中央値56分(IQR 47〜68)、覚知から | レジストリ。対照群なし。推定low-flow時間は55分 |
| ELSOの目標 | 60分以内 | 「心停止発症から60分以内に適切なECMO流量を確立することが目標」 |
表:ARRESTとPragueは約60分、陰性だったINCEPTIONは74分。そして日本のSAVE-J IIは56分と短い。ただし起点(911通報か崩壊か覚知か)と統計量(平均か中央値か)が試験ごとに違うので、厳密な横並びではない。ELSOが「60分以内」を目標に置いていることと合わせると、この治療の成否を分けているのは薬剤や機種ではなく時間だという仮説が立つ。ただしこれは試験間の比較であって、時間を短縮すれば転帰が良くなることを証明したものではない。
ELSOは目標をはっきり書いている。「ECPRの目標は、心停止発症から60分以内に適切なECMO流量を確立することである」。根拠として「非低体温の心停止では、生存者の大多数は60分未満でECMO補助が確立されていた」と述べている。
ただし60分は絶対の線ではない
同じELSOの文書に、線を引きすぎないための記述も併記されている。「ある施設では、通常CPRを90分行った後のECPRの生存率は14%だった」。ゼロではない。
さらに「低体温による心停止では、ECPRの前に3時間を超える機械的CPRを行った後でも、神経学的に無傷の生存が起きている」とも書いている。低体温は時間の物差しが変わる、という重要な例外だ(→⑥)。
4統合するとどう見えるか
図3:ECPRのメタ解析
| 研究 | 対象 | 主要結果 | 補足 |
|---|---|---|---|
| Low 2023 Lancet Respir Med |
RCTと傾向スコア研究11件。ECPR 4,595例 vs 従来 4,597例 | 院内死亡 OR 0.67(95%CI 0.51〜0.87)、P=0.0034(エビデンスの確実性:高) | 院内心停止では0.42(0.25〜0.70)と明確だが、院外心停止だけなら0.76(0.54〜1.07)で有意でない |
| Scquizzato 2023 Artif Organs |
RCTのみ4件 | 神経学的に良好な生存 27%(59/220)vs 18%(39/213)、OR 1.72(1.09〜2.70)、P=0.02、必要治療数9 | 初期波形がショック適応の例だけなら 34% vs 23%、OR 1.90(1.16〜3.13)、必要治療数7 |
| Heuts 2024 Crit Care |
3試験それぞれの研究者が共著者に名を連ねるベイズ流メタ解析(集計データ)。ECPR 209例 vs 従来 211例 | 6か月の神経学的に良好な生存 相対リスク 1.47(95%信用区間 0.73〜3.32)、絶対リスク差 8.7% | 絶対リスク差が0%を超える事後確率91.0%、5%を超える事後確率71.1% |
表:注目すべきはLow 2023が示した施設症例数と死亡の関係で、逐語では「施設の症例数(年間ECPR件数)は死亡オッズの低下と関連していた(症例数が倍になるごとの回帰係数 −0.17、95%CI −0.32〜−0.017、P=0.030)」。ECPRは「どこでやるか」で結果が変わる治療であることが、メタ解析の水準で示されている。
RCTだけを統合したScquizzatoのメタ解析では、神経学的に良好な生存が27%(59/220)vs 18%(39/213)、OR 1.72(95%CI 1.09〜2.70)、P=0.02、必要治療数9。初期波形がショック適応の症例に絞ると34% vs 23%、OR 1.90(1.16〜3.13)、必要治療数7とさらに明確になる。
3試験それぞれの研究者が共著者に名を連ねるベイズ流のメタ解析(集計データによる研究レベルの統合)では、6か月の神経学的に良好な生存について絶対リスク差が0%を超える事後確率91.0%、5%を超える事後確率71.1%。ショック適応波形に絞ると92.4%と75.8%に上がる。
研究者たち自身が書いている限界
Heutsらは考察で、ARRESTとPrague OHCAの研究者による別の患者レベル解析(2試験286例、絶対リスク差12.7%)に触れて、こう留保を付けている。逐語で「これらの結果は励みになるものであり、この患者集団でのECPRの使用を支持するように見えるが、2つの単施設試験はECPRに広範な専門性を持つ定評ある施設で実施されたことに留意しなければならない」「したがって、この患者レベル解析の結果は、実世界の状況には一般化しにくい可能性がある」。
そして自分たちの3試験統合については、INCEPTIONを加えたことで外的妥当性は上がるとしつつ、「ECPRに基づく院外心停止治療の有効性は、救命の連鎖のシステムによって異なりうることを念頭に置くべきである」と結んでいる。試験を作った本人たちが「体制次第だ」と言っているのが、この領域のいちばん正確な要約かもしれない。
Low 2023のメタ解析はもうひとつ重要な区別を示している。院内心停止に限れば OR 0.42(0.25〜0.70)と明確に死亡が減るのに、院外心停止だけでは OR 0.76(0.54〜1.07)で有意でない。院内なら時間が短いという当たり前の事情が、そのまま結果に出ている。
5誰に回すか ― ELSOの選択基準
図4:ELSOのECPR患者選択基準
| 項目 | ELSOが挙げる基準 |
|---|---|
| 年齢 | 70歳未満 |
| 目撃 | 目撃のある心停止 |
| no-flow時間 | 心停止から最初のCPRまで5分未満(=bystander CPRがある) |
| 初期波形 | 心室細動/無脈性心室頻拍/無脈性電気活動 |
| low-flow時間 | 心停止からECMO流量確立まで60分未満 |
| ETCO₂ | カニュレーション前の通常CPR中に10 mmHg(1.3 kPa)超 |
| その他の所見 | 間欠的な自己心拍再開、あるいは心室細動の再発がある |
| 併存疾患 | 予後を限定する既知の併存疾患がない |
| 大動脈弁 | 既知の大動脈弁閉鎖不全がない(軽症を超えるものは除外すべき) |
表:ELSO ECPR暫定ガイドライン(2021)が挙げる患者選択基準。この文書は冒頭で「質の高いエビデンスが乏しい領域では、臨床医への指針を示すために著者間で合意に達した」と断っている――つまりコンセンサスであって、各項目にエビデンスの裏づけがあるわけではない。なお乳酸やpHの数値閾値はELSOの選択基準には書かれていない(ARRESTは来院後の蘇生中止基準として乳酸18 mmol/L超などを用いている)。「乳酸○○以上は適応外」と書いてある資料を見たら、出典を確かめたほうがいい。なお表の直前でELSOは「施設ごとに合意した組入基準を策定すること」を推奨している。
RCTの組入基準はこれとは違う
研修医が混同しやすいので分けておく。ELSOの表はコンセンサスによる選択基準で、3つのRCTが実際に使った組入基準はそれぞれ違う。
ARRESTは18〜75歳、難治性心室細動、3回のショックで自己心拍再開なし、搬送時間30分未満。INCEPTIONは18〜70歳、bystander CPRを受けている、初期波形が心室性不整脈、CPR開始から15分以内に自己心拍再開なし。Prague OHCAは18〜65歳、目撃のある心原性と推定される心停止で、救急隊によるACLS最低5分後も自己心拍再開なし。
そして3試験のいずれも、乳酸値やpHの閾値を組入基準としては用いていない。ただしARRESTは来院後の蘇生中止基準として「ETCO₂ 10 mmHg未満、PaO₂ 50 mmHg未満またはSpO₂ 85%未満、乳酸 18 mmol/L超のうち2項目以上」を置いており、この基準でECMOへ進まず死亡と判定された例が2例ある。数値閾値がまったく存在しないわけではなく、「入口」ではなく「引き返す基準」として使われている点が違う。
6導入の実際 ― ELSOが書いている手順
- カニューレサイズ:「動脈15〜17 Fr、静脈19〜25 Frの多孔式カニューレで満足のいく血流が得られる。小柄な患者ではより細いカニューレも許容されうる」。「多くの回路は15 Frの動脈送血カニューレで4 L/min超の血流を供給できる。大柄な男性では17〜19 Frを用いてもよい」。
- 流量の上げ方:「VA-ECMOの補助は20秒かけて漸増し、3〜4 L/minの血流を目指す」。
- 胸骨圧迫の中止:「VA-ECMO血流が3 L/min以上になったら、機械的圧迫を中止すべきである」。
- 遠位灌流カテーテル:「送血側と同側に留置すべきである。これは4時間以内に行う」「下肢虚血のリスクを減らすため、理想的には4時間以内に留置すべき」。ECPRでは導入時ではなく「初期展開には必須ではない。冠動脈カテーテル検査などの治療を優先すべき」という書き方になっている点が、通常のVAと違う。
- 乳酸:「クリアランスの評価と臓器機能の監視のために乳酸を経時的に測定することが、補助の指針として用いられうる」。数値目標は示されていない。
ECPRだけDPCの扱いが違う理由
通常のVA-ECMOでは遠位灌流カテーテルを「導入時に置く」のがELSOの方針だ(→④⑦)。ところがECPRでは「初期展開には必須ではなく、冠動脈カテーテル検査などの治療を優先すべき。ただし理想的には4時間以内に」と明確に順位が下げられている。
心停止直後は脳と心筋を救うことが最優先で、下肢は4時間なら待てる、という判断だ。優先順位を言語化しているガイドラインは意外に少ないので、この記述は覚えておく価値がある。
7日本のECPR ― SAVE-J IIが映すもの
SAVE-J II(Crit Care 2022)は、日本の36施設で2013〜2018年にECPRを受けた院外心停止1,644例の後ろ向きレジストリだ。生存退院27.2%、退院時の神経学的に良好な転帰14.1%、ECPR中の合併症32.7%。
図5:日本のECPRデータ
| 出典 | 転帰 | 補足 |
|---|---|---|
| SAVE-J II(36施設1,644例、2013-2018) | 生存退院 27.2%/神経学的に良好 14.1% | 選択された施設の症例。合併症は32.7% |
| 全国DPC(5,612例、2010-2017) | 生存退院 16.4%/神経学的に良好 12.4% | 非選択の全国データ。従来CPRは2.7%/1.6% |
| ECPRの実施割合(同) | 心停止全体の 2.6% | 2010年の2.1%から2016年の3.0%へ有意に増加 |
| JAAM-OHCA(87施設2,315例、2014-2020) | 30日生存は施設の累積症例数と有意な関連なし | ただし来院からECMO開始までの時間は経験とともに有意に短縮 |
表:同じ日本でも、選択された36施設のSAVE-J II(27.2%)と非選択の全国データ(16.4%)で生存退院率が10ポイント以上違う。母集団が違うので単純比較はできないが、「日本のECPRの成績は」と一言で語れないことは分かる。数字を引用するときは、それがどのデータベースの数字かを必ず添えたい。
日本のECPRを一言で表す数字
この研究でいちばん日本らしいのは、実は転帰ではなくカニュレーション場所だ。逐語で「カニュレーションの場所として最も多かったのは救急外来(64.2%)とカテーテル室(35.6%)だった」。
Prague OHCAが「機械的圧迫を続けながら心臓センターへ搬送してECPR」という設計だったのに対し、日本は救急外来でそのまま回している。AHA 2025が「地域化されたアプローチが妥当」としているのとも形が違う。
そしてその結果が時間に出ている。来院からECMOまで中央値22分(IQR 15〜32)、覚知からECMOまで56分(47〜68)、推定low-flow時間55分(45〜66)。3つのRCTのどれよりも短い。
SAVE-J IIの前身であるSAVE-J(Resuscitation 2014)は、初期波形がVF/VTの症例に限定し、ECPR+低体温+IABPというバンドルを評価した前向き観察研究だった。intention-to-treat解析で1か月のCPC 1-2が12.3%(32/260)vs 1.5%(3/194)、P<0.0001、6か月で11.2% vs 2.6%、P=0.001。SAVE-J IIは波形の限定を外して1,644例に広げた分、良好転帰の割合が14.1%に落ち着いている、という関係になる。
8全国データで見る日本
選択された施設ではなく、全国の入院データベースで見るとどうなるか。2010年7月〜2017年3月の院外心停止217,907例を解析した研究がある。
- ECPRを受けたのは5,612例、実施割合2.6%。2010年の2.1%から2016年の3.0%へ有意に増加(P<0.001)。
- 生存退院はECPR 16.4%、従来CPR 2.7%。
- 神経学的に良好な転帰での退院はECPR 12.4%、従来CPR 1.6%。
SAVE-J IIの27.2%と、この全国データの16.4%。同じ日本のECPRでも10ポイント以上開く。選択された施設の症例か、非選択の全国データかで数字が変わるのは当然だが、引用するときにどちらの数字かを明示しないと誤解を生む。
症例数と転帰 ― 日本のデータは少し違う顔をしている
JAAM-OHCAレジストリ(87施設2,315例、2014年6月〜2020年12月)の解析では、30日生存率はECPRの累積症例数と有意に関連していなかった。Low 2023の国際メタ解析が示した施設症例数と死亡の関係とは、一見食い違う。
ただし同じ研究は「来院からECMO開始までの時間は、ECPRの経験の蓄積とともに有意に短縮した(P<0.001)」とも報告している。さらにショック適応でない波形の症例では、経験の蓄積とともに30日生存が改善する傾向があった(P=0.04)。
読み方としては、経験はまず「速さ」として現れ、転帰への翻訳はその先にあるということかもしれない。日本はすでに56分と速いので、そこからさらに転帰を動かすには別の要素が要る、とも読める。
9ガイドラインの推奨
- AHA 2025(Systems of Care):「ECPRプログラムを持つ施設が、心停止の生存を最大化し、公平なアクセスを確保し、無益性を制限するために、患者選択基準を策定し頻繁に再評価することは妥当である」(Class 2a、エビデンスレベル C-LD)。同じClass 2a・C-LDで「成人の末梢ECPRカニュレーションを行う臨床医が経皮的手技に習熟していることは妥当である」「ECPRへの地域化されたアプローチは、転帰と資源利用を最適化するために妥当である」。「ECPRを目的とした心停止中の迅速な搬送は、限られた高度に選択された成人の院外心停止患者において考慮されうる」(Class 2b、エビデンスレベル B-R)。
- ILCOR CoSTR 2023(ALS: ECPR for cardiac arrest):「通常のCPRで自己心拍が回復しない選択された院外心停止患者に対し、それが実施可能な体制において、ECPRを救済療法として考慮してもよい(弱い推奨、エビデンスの確実性は低い)」。院内心停止についても同様の文言で、確実性は「非常に低い」。
AHAの推奨の主語を読む
AHA 2025のECPR関連の推奨を並べて気づくのは、主語が患者ではなく施設・体制・術者になっていることだ。「どの患者に回すか」ではなく「どういう体制を作るか」に推奨が向いている。
これは偶然ではない。3つのRCTとメタ解析が示したのが「同じ手技でも体制で結果が変わる」ということだったからだ。ECPRは個々の判断より、平時の準備で決まるという理解が、ガイドラインの構造そのものに現れている。
なお日本のJRC蘇生ガイドラインのECPRに関する推奨文については、本稿ではPDFの本文を取得できず、逐語での引用ができなかった。実際に参照する場合は日本蘇生協議会の公開PDFで該当CQを確認してほしい。
10やりがちな失敗とTake home
| 1 INCEPTIONの陰性結果で「ECPRは無効」と結論する | ECPR群でECMO流量が確立したのは66%。崩壊からECMOまで74分と陽性試験より15分長い。 |
| 2 ARRESTの43%を一般化する | 30例の単施設試験。難治性心室細動に絞り、搬送30分以内という条件がついている。 |
| 3 Prague OHCAを「陰性」とだけ覚える | 主要評価項目の180日はP=.09だが、30日は OR 1.99(1.11〜3.57)で有意。 |
| 4 乳酸やpHの閾値で適応を切る | ELSOの選択基準にも3試験の組入基準にも数値閾値はない。ARRESTが使ったのは来院後の中止基準。 |
| 5 日本の成績を1つの数字で語る | SAVE-J IIは27.2%、全国DPCは16.4%。母集団が違う。 |
| 6 体制を作らずに個々の判断で回す | ガイドラインの推奨の主語が施設・体制・術者になっているのはそのため。 |
| 7 低体温の心停止に同じ時間の物差しを当てる | ELSOは3時間超の機械的CPR後でも神経学的に無傷の生存が起きていると書いている。 |
| 8 ECPRでも遠位灌流カテーテルを導入時に必須と考える | ELSOは冠動脈カテーテル等を優先し、理想的には4時間以内としている。 |
Take home
- ECPRはVAを心停止に緊急適用したもの。回した先に「やること」がなければ適応がない
- ELSOは10〜20分の蘇生失敗でカニュレーション開始、60分以内のECMO流量確立を目標にする
- ARRESTとPragueは約60分、陰性のINCEPTIONは74分。日本のSAVE-J IIは56分
- RCTのみのメタ解析で神経学的に良好な生存 OR 1.72、必要治療数9。ショック適応波形なら必要治療数7
- 施設の年間症例数が倍になるごとに死亡オッズが低下する(P=0.030)。これはシステムの治療だ
- 院内心停止では OR 0.42と明確、院外だけなら0.76で有意でない
- 日本は救急外来でのカニュレーションが64.2%。来院からECMOまで中央値22分
- ガイドラインの推奨は患者選択より体制づくりに向いている。平時の準備で結果が決まる
参考文献
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- Richardson ASC, et al. Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation in Adults. Interim Guideline Consensus Statement From the Extracorporeal Life Support Organization. ASAIO J. 2021;67:221-228.
- Part 4: Systems of Care: 2025 American Heart Association Guidelines for CPR and ECC. Circulation. 2025.(ECPRに関するClass 2a/2bの推奨)
- ILCOR CoSTR 2023: Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation (ECPR) for cardiac arrest (ALS systematic review). costr.ilcor.org.(弱い推奨、エビデンスの確実性は低い)
- Ali S, Meuwese CL, Moors XJR, et al. Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation for refractory cardiac arrest: an overview of current practice and evidence. Neth Heart J. 2024;32:148-155.(INCEPTIONの施設あたり症例数とプロトコルのばらつき)
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