循環器

ECMO入門⑦ VA-ECMO 管理 ― differential hypoxia・LV unloading・下肢虚血・V-AV

末梢VA-ECMOは、回した瞬間に3つの宿題を連れてくる。上半身が低酸素になる(differential hypoxia)、左室が開かなくなる(LV過膨張)、送血肢が虚血する。どれも合併症というより構造上の帰結で、避けられない代わりに予測できる。本章(ECMO入門⑦)は、その3つの見つけ方と対処の順番、そしてV-AVへの切り替えまでを、一次資料の数字で並べる。

この記事の芯

右上肢で測る。大動脈弁を見る。足を触らずドプラを当てる。この3つがVA-ECMO管理の日課だ。

左室減圧については正直に書いておく。観察研究は3つとも死亡低下を示すのに、ランダム化試験は2つとも差を示さなかった。だから「肺うっ血が進んでいるなら減圧する」までは言えるが、「全例に早期から減圧する」は現時点で支持されていない。

この記事でわかること

  • differential hypoxiaは3段階で考える。上下で酸素化が違うこと自体は異常ではない
  • 対処の選択肢:人工呼吸設定→左室ベント流量→(一時しのぎとして)mixing pointを動かす→V-AV→送血部位変更→中枢化
  • VA-ECMOでsweep gasを止めてはいけない。右左シャントになる
  • LV過膨張の徴候は脈圧5〜10 mmHg未満・大動脈弁が開かない・左室のもやもやエコー・肺水腫
  • ELSOの減圧効果の表は「効き目」であって「予後改善度」ではない
  • 減圧の観察研究3つ(RR 0.79/調整OR 0.84/HR 0.79)とRCT2つ(差なし)が食い違っている
  • EARLY-UNLOADは従来群の50%が救済的に減圧へ移行した試験。読み方に注意
  • V-AVのエビデンスは系統的レビューで5研究77例しかない。救済手段であって標準ではない

1末梢VAが必ず連れてくる3つの宿題

大腿静脈から脱血し、大腿動脈へ逆行性に返す。この構成を選んだ時点で、次の3つは自動的についてくる。

  • differential hypoxia(旧称Harlequin syndrome):自己心が動いていて、かつ自己肺が悪いと、左室から出た低酸素の血が冠動脈と頸部分枝を灌流する。上半身だけが低酸素になる。
  • LV過膨張:逆行性送血は左室の後負荷を上げる。弱った左室は駆出できず拡張し、肺水腫と左心系血栓に向かう。
  • 下肢虚血:太い送血カニューレが大腿動脈を占拠する。その末梢が虚血する(→④)。

重要なのは、この3つが「合併症」ではなく「設計の帰結」だという理解だ。だから毎日探しに行く。起きてから気づくのでは遅い。

2mixing pointという考え方

②で扱ったmixing zoneの話を、ここでは管理の言葉に翻訳しておく。2024年にIntensive Care Med誌に国際的な用語整理が出て、呼び方が定まった。

  • mixing point:大動脈の中で、左室から出た順行性の血流と、送血カニューレから返る逆行性の血流がぶつかる場所
  • 自己肺ゾーン(native lung zone):大動脈基部からmixing pointまで。ここは自己肺の出来で酸素化が決まる。
  • 膜肺ゾーン(membrane lung zone):送血カニューレからmixing pointまで。ここは膜の出来で決まる。
  • differential oxygenation:mixing pointの両側で酸素含量が違う状態。

脈圧20 mmHgという目印

同じ資料に実務的な目安が書いてある。逐語で「大腿VA-ECMOの患者で、右上肢の動脈圧の脈圧が20 mmHgを超えていれば、mixing pointは腕頭動脈より遠位にあることが多い」

つまり脈圧が出てきた=自己心が押し返している=mixing pointが末梢へ移動している。心機能が回復してくるとdifferential hypoxiaのリスクが上がる、という逆説がここにある。「良くなってきたから安心」ではない

そして、なぜ右上肢なのか。同じ資料が答えを書いている。「右上肢は、自己肺ゾーンのSpO₂を体表で測定できる最初の場所であり、したがって継続的に監視されなければならない」。(解剖学的な補足として、腕頭動脈が大動脈弓の最も中枢側から分岐するため。この一文は資料の記述ではない。)左手や下肢では自己肺ゾーンの状態が見えない。

3differential hypoxia ― 3段階と対処の順番

図1:differential hypoxiaの3段階

段階 状態 対応の温度感
シナリオ1 2つの循環で酸素含量は違うが、どちらの飽和度も臨床的に許容範囲 監視を続ける。ここで慌てて介入しない(この列の温度感は筆者の整理)
シナリオ2 自己肺または膜のどちらかが十分に悪く低酸素血症は起きているが、酸素運搬は組織低酸素を避けられている 原文は「低酸素血症を是正する介入は不要な場合もある」。介入するなら上流=自己肺の設定から
シナリオ3 低酸素血症に加えて組織低酸素まで生じている 構成変更を含めて速やかに介入する

表:2024年にIntensive Care Med誌に出たELSOのポジションペーパー(Badulakら、dual circulationの生理と用語)による3段階。原文が明記しているのは「シナリオ2では介入が不要な場合もある」「シナリオ3では組織低酸素を是正する試みはほぼ常に適切」で、「対応の温度感」の列は筆者の整理。「上下で酸素化が違う」こと自体は異常ではなく、それが低酸素血症を生んでいるか、さらに組織低酸素まで至っているかで対応が変わるという整理。研修医が最も間違えやすいのは、シナリオ1で慌てて構成を変えてしまうことだ。

ELSOも同じ趣旨を短く書いている。「差のある酸素化とは、下半身がECMOで酸素化された血で灌流される一方、左室が回復し、かつ重症の肺不全が併存するときに、上半身の一部(冠動脈・右腕・脳)が低酸素の血を受け取る状況を指す」「適時に認識するには、血液ガスと飽和度を右腕から採らなければならない」

図2:対処の順番

手順 内容
① 人工呼吸設定を強化する 肺胞の含気を保ち、肺内シャントを減らす。これが最初の一手
② 左室ベントの流量を上げる 微小軸流ポンプが入っているなら流量を上げて左室をうっ血から解放し、肺水腫を軽くする
③ mixing pointを動かす ECMO流量を上げる、または左室ベントの流量を下げると、mixing pointは中枢側(近位)へ動くただし同資料は「これらの操作は左室後負荷を上げて駆出を減らし、肺水腫・血液うっ滞・心肺内血栓を悪化させる」と警告し、重度の脳低酸素に対する一時しのぎに限るとしている
④ V-AVへ早期に変換する 静脈側の送血路を追加する。ELSOも「換気の最適化で解決しないなら送血カニューレの追加、V-AVが必要になりうる」と書いている
⑤ 送血部位を上半身へ移す 右腋窩動脈・右鎖骨下動脈・腕頭動脈へ。順行性に近づける
⑥ 中枢カニュレーションへ 上行大動脈へ送血する。侵襲は大きい

表:①〜⑥の番号は資料の記述をもとに筆者が整理したもので、資料自体が番号付きの手順を示しているわけではない(⑤⑥は「代替として」並列に挙げられている)。それでもいきなり構成変更に飛ばないという原則は資料の趣旨に沿う。上流(自己肺)の問題は上流で直すのが原則で、人工呼吸設定の最適化を飛ばしてV-AVにしても、自己肺が悪いままなら同じことを繰り返す。なお同じ資料は「VA-ECMOではsweep gasを決して止めてはならない。右左シャントとして低酸素を招く」とも注意している。

VA-ECMOでsweep gasを止めてはいけない

研修医が知らずにやりがちな事故として、「VAだからCO₂は自己肺で抜ける」と考えてsweepを切ることがある。用語整理の資料は明確に禁じている――逐語で「VA-ECMOではsweep gasを決して止めてはならない。右左の低酸素性シャントを生じるからだ」

膜に血が流れているのにガスが流れていなければ、その血は酸素化されないまま動脈へ返る。ECMOが酸素化装置ではなくシャントになる

もうひとつ実務的な原則として、同資料は「自己肺への支持(通常は人工呼吸器)は右上肢の血液ガスに基づいて調整し、膜肺(sweep gas)は膜後の血液ガスに基づいて調整する」と、2つの循環をそれぞれ別の指標で管理せよ、と書いている。ここが腑に落ちると、VA-ECMOの血液ガスの読み方が一段クリアになる。

なお脳の監視について、同資料は「一部の施設では脳の低酸素を早期に検出する補助として、頭部の近赤外分光法(NIRS)モニタリングも用いている」と紹介している。右手SpO₂と組み合わせる施設がある、という程度の位置づけだ。

4左室が開かない ― LV過膨張

図3:LV過膨張の徴候

見るもの 所見 意味
脈圧 5〜10 mmHg未満 動脈圧波形が平坦化する。最も拾いやすい
大動脈弁 開放しない エコーで大動脈弁の開閉を見る。開かなければ左室から血が出ていない
左室内 もやもやエコー(smoke-like)、進めば血栓 血流が停滞している証拠。左心系や大動脈基部の血栓は破滅的
胸部X線 肺水腫 後負荷上昇→左室拡張→左房圧上昇の帰結
左室拡張 エコーで左室が拡大していく 上の所見と合わせて判断する

表:ELSOのVA-ECMOガイドラインは「高い後負荷と乏しい左室駆出は大動脈弁の開放を妨げ、急性肺水腫や、左心腔・大動脈基部の破滅的な血栓症に至りうる」とし、徴候として胸部X線の肺水腫、脈圧5〜10 mmHg未満、左室のもやもやエコー、閉じたままの大動脈弁を挙げている。日本のJCS 2023も「動脈圧波形による大動脈弁開放の有無、心エコー検査による大動脈開放の有無や左室拡張の有無、胸部X線による肺うっ血の進行を見ることで、間接的に左室内圧の上昇を診断することができる」と同じ組み合わせを書いている。

頻度の報告としては、226回のVA-ECMOのうち解析可能だった121回を見た研究がある。導入直後に減圧を要した明らかな左室拡張が9例(7%)、肺水腫と肺動脈拡張期圧25 mmHg超で定義した潜在的な拡張が27例(22%)

生存率は変わらないが、心筋の回復は変わる

同じ研究で興味深いのは、生存退院率は3群でほぼ同じ(44%/41%/44%)だったのに、心筋の回復率は左室拡張の程度と逆相関していた(11%/26%/40%)ことだ。

つまり左室過膨張は「死ぬかどうか」より「心臓が戻るかどうか」に効いている可能性がある。ECMOから離脱できるか、移植やVADへ進むかの分かれ目になる。

また多変量解析ではECPRとして導入されたことが減圧を要する独立した危険因子(OR 3.64、95%CI 1.21〜10.98、P=0.022)だった。心停止から回した患者では、左室を早めに見に行く。

5減圧の手段と、その効き目

図4:ELSOが挙げる左室減圧の手段

手段 ELSOの減圧効果 備考
ECMO流量を下げる √√√ 無料でできる最初の一手。ただし循環が保てる範囲で
強心薬 √√ 左室を動かす。心筋酸素消費は増える
血管拡張 √√ 後負荷を下げる。血圧が許せば
PEEPを上げる √√ 意外に載っている。肺血管抵抗と左室前負荷に効く
IABP √√ 日本の全国データで併用群の死亡率が低かった(後述)
Impella(微小軸流ポンプ) √√√√√ 最も強力。ECPELLAと呼ばれる
肺動脈ベント √√√ 肺動脈から脱血する
経中隔左房カニューレ √√√√ 心房中隔を穿刺して左房から脱血
心房中隔裂開術 √√√〜√√√√ バルーンで中隔に穴を開ける
心尖部ベント/僧帽弁経由の左室ベント √√√√√ 外科的。最も直接的

表:ELSO VA-ECMOガイドラインが表で示している減圧効果の強さ(√の数)から抜粋したもの(原表には利尿薬√、拍動性経大動脈吸引デバイス√√√、静脈カニューレ追加√√、中枢ECLS√√も並ぶ)。これは「減圧の効き目」であって「予後を良くする度合い」ではない――ここを取り違えないこと。√が5つのImpellaや心尖部ベントが最も予後を良くする、とはどこにも書かれていない。なお「ECMO流量を下げる」が√3つで上位にあるのは実務的に重要で、まずここから考える。

この表を見るときの注意を繰り返しておく。√の数は「左室をどれだけ減圧できるか」であって、「予後をどれだけ良くするか」ではない。そして最も手軽な「ECMO流量を下げる」が√3つで、IABPやPEEPより上に位置している。循環が保てるなら、ここから考えるのが筋がいい。

それぞれの手段の実データ

IABP:日本の全国DPCデータベースを使った傾向スコア研究がある。1,650例をIABP併用群とVA-ECMO単独群に分け、533対をマッチさせたところ、28日死亡 48.4% vs 58.2%(P=0.001)、院内死亡 55.9% vs 64.5%(P=0.004)、ハザード比 0.74(95%CI 0.63〜0.86)ECMOから離脱できた割合も82.6% vs 73.4%(P<0.001)と高かった。日本発のデータとして押さえておく価値がある。

経中隔左房ベント:単施設の後ろ向き比較(各62例、脈圧10 mmHg未満が24時間以上続いた例)で、ECMO離脱率61.3% vs 38.7%(P=0.012)、心移植到達率29.0% vs 11.3%(P=0.014)。ただし院内死亡には有意差なし(56.5% vs 69.4%、P=0.191)

心房中隔裂開術:64例(成人32・小児32)の多施設報告で、左房圧が24.2±6.9から7.8±2.6 mmHgへ低下、翌日の胸部X線が76.6%で改善。合併症は9.4%(心嚢液貯留、心房細動、除細動を要した心室細動、一過性完全房室ブロック、被覆ステントを要した大腿静脈解離)。

肺動脈脱血:15例のケースシリーズ(左室減圧目的だけでなく右室補助目的の症例も含む)で院内死亡3例(20%)。規模がこの水準であることは知っておく。

6減圧は予後を変えるか ― 観察研究とRCTの食い違い

図5:左室減圧のエビデンス

研究 デザイン 主要結果 害・注意
Russo 2019
JACC
観察研究17件3,997例のメタ解析(減圧手段の91.7%はIABP) 死亡 54% vs 65%、RR 0.79(95%CI 0.72〜0.87) 溶血が増加。すべて観察研究
Grandin 2022
JACC
レジストリ12,734例(26.7%が減圧) 院内死亡 56.6% vs 59.3%、調整OR 0.84(0.77〜0.92) 刺入部出血 調整OR 1.25、溶血 調整OR 1.27
Schrage 2020
Circulation
16施設686例、Impellaによる減圧、傾向スコアマッチ255対 30日死亡 ハザード比 0.79(0.63〜0.98)、P=0.03 重症出血 38.4% vs 17.9%、刺入部虚血 21.6% vs 12.3%、腎代替療法 58.5% vs 39.1%
EARLY-UNLOAD
Circulation 2023
RCT。116例。12時間以内の経中隔左房脱血 vs 従来 30日死亡 46.6% vs 44.8%、ハザード比 1.02(0.59〜1.74)、P=0.942 従来群の50%が救済的に左房脱血へ(中央値21.8時間後)。肺うっ血の消失は早かった(3日 vs 5日)
EVOLVE-ECMO
2023
RCT。60例。早期左房ベント vs 従来 ECMO離脱率 70.0% vs 76.7%、RR 0.91(0.67〜1.24)、P=0.386 生存退院 53.3% vs 50.0%。従来群でも76.7%が後に左房ベントを受けている(中央値48.4時間)

表:観察研究は3つとも死亡率が低い方向(RR 0.79/調整OR 0.84/ハザード比0.79)を示すのに、RCTは2つとも差がつかなかった。VV-ECMOのEOLIAとは逆の構図で、ここでは観察研究のほうが良く見えている。減圧を要する患者はもともと左室が悪いのだから、交絡は「減圧群のほうが悪く見える」方向に働くはず――にもかかわらず観察研究で良く出るのは、施設要因(減圧を積極的にやる施設はECMO全体が上手い)が効いている可能性がある。

この表が本章でいちばん重要だと思う。観察研究は3つとも「減圧すると死亡が減る」方向を示し、ランダム化試験は2つとも「変わらない」だった

EARLY-UNLOADの読み方

EARLY-UNLOAD(Circulation 2023、韓国単施設、116例)はランダム化から12時間以内のルーチンの経中隔左房脱血を検証した。30日全死亡は46.6% vs 44.8%、ハザード比 1.02(95%CI 0.59〜1.74)、P=0.942

ただしここも対照群を見る必要がある。従来群58例のうち29例(50%)が、明確な適応に基づいて救済的に経中隔脱血へ移行している。その時期は中央値21.8時間後。つまりこの試験も「全員に12時間以内か、必要になってから21.8時間後か」を比べたのであって、「減圧するかしないか」ではない。ECMO-CSと同じ構造だ。

そして肺うっ血の消失は早期群のほうが早かった(中央値3日 vs 5日、P=0.027)。生理学的な効果は出ているが、それが死亡率に翻訳されなかった、という読み方になる。

実務的な落としどころはこうだと思う。肺うっ血が進んでいる、大動脈弁が開かない、左室にもやもやエコーが出ている――こうした所見があるなら減圧する。所見がないうちから全例に早期減圧をかける根拠は、現時点でない。害の側は明確で、Schrageの研究では減圧群で重症出血38.4% vs 17.9%、刺入部虚血21.6% vs 12.3%、腎代替療法58.5% vs 39.1%と軒並み増えている。

DanGer Shockは「ECMOの減圧」の試験ではない

よく一緒に語られるDanGer Shock(NEJM 2024)は、ST上昇型心筋梗塞による心原性ショックに微小軸流ポンプを使うかどうかのRCTで、VA-ECMOの減圧を検証したものではない。355例で180日死亡 45.8% vs 58.5%、ハザード比 0.74(95%CI 0.55〜0.99)、P=0.04と陽性だった。

ただし安全性の複合エンドポイントは24.0% vs 6.2%(相対リスク 4.74、95%CI 2.36〜9.55)、腎代替療法は41.9% vs 26.7%(相対リスク 1.98、1.27〜3.09)「Impellaが効いた」を「ECPELLAが効く」に読み替えてはいけない。試験が扱った集団が違う。

7V-AVへの切り替え

differential hypoxiaが人工呼吸の最適化で解決しないとき、次に来るのがV-AVだ。静脈脱血のまま、送血を動脈と静脈の両方へ分ける。動脈側で循環を、静脈側で自己肺を通る血の酸素化を担保する。

図6:V-AVの実データ

出典 規模 内容 補足
欧州5施設コホート 32例 VAから16例、VVから16例。転換までの中央値2日 VAからの理由は全例differential hypoxia(16例)。VVからは両心不全6・右心不全4・左心不全6
流量の配分 動脈側 3.0 L/min、静脈側 2.8 L/min(いずれも中央値) 乳酸は3.9→2.8 mmol/Lへ有意に低下
転帰 ICU死亡 19/32(59%) 下肢虚血の頻度は転換前後で不変(16%→22%)。早期の特異的合併症の報告なし
系統的レビュー 5研究77例 91%が既存の構成からの転換(VAから55%、VVから36%)。最初からV-AVは9% ICU死亡46%、抜去まで離脱できたのは33%

表:V-AVのエビデンスはこれで全部と言っていい規模――系統的レビューでも5研究77例しかない。RCTはなく、比較対照もない。「乳酸が下がった」という生理学的な改善までは示されているが、転帰を改善するという証明はない。V-AVは救済手段であって、標準治療ではない。

欧州5施設の32例のコホートを見ると、VAからV-AVへ移した16例の理由は全例がdifferential hypoxiaVVからV-AVへ移した16例の理由は両心不全6例・右心不全4例・左心不全6例だった。つまりV-AVは「VAの酸素化問題」と「VVの循環問題」の両方から辿り着く合流点になっている。

流量の配分は半々くらい

同じコホートで実際の流量は動脈側 3.0 L/min、静脈側 2.8 L/min(いずれも中央値)。おおむね半々だ。乳酸は3.9から2.8 mmol/Lへ有意に低下しており、生理学的には効いている。

ただしICU死亡は19/32(59%)。V-AVに移した患者はそもそも重症だということでもある。なお下肢虚血の頻度は転換前後で変わらず(16%→22%)、転換に伴う早期の特異的合併症の報告はなかった。

流量配分を具体的にどう制御するか(クランプや抵抗の調整)については、ガイドラインの逐語的な記載を見つけられなかった。施設ごとの手技になっているのが現状だと思われる。

日本のJCS 2023も同じ流れを書いている。逐語で「North-south syndromeを認める場合、酸素化された血液を肺に流す目的で、静脈送血カニューラ追加によるV-AV ECMOへの変更や、心機能が改善している場合にはV-A ECMOからV-V ECMOへの移行を検討する」。日本のガイドラインはこの現象をnorth-south syndromeと呼んでいる(本連載ではdifferential hypoxiaで統一している)。

8下肢の監視

3つ目の宿題である下肢虚血については、カニューレのサイズ・遠位灌流カテーテルの穿刺・NIRSの閾値を④で詳しく扱った。ここでは管理として押さえる点だけ。

  • 触診は当てにならない。VA-ECMO中は拍動が乏しいか無い。後脛骨動脈・足背動脈の収縮期最高血流速度をドプラで追う
  • ELSOのNIRS基準は50%以上、できれば60%以上、左右差20%未満
  • 遠位灌流カテーテルは導入時に置くのがELSOの方針。ELSOレジストリでは下肢虚血5.3%、下肢切断0.7%(→④)。
  • ELSO自身が「小さな遠位灌流カニューレを使うことで下肢虚血の頻度は25.4%から9.7%に下がる」と書いている。ELSOがこの文に付けている出典はELSO Red Bookだが、数値はJuo 2017のメタ解析(9.74% vs 25.42%、RR 0.41)と一致する。

9日本の事情 ― ECPELLA

日本のVA-ECMO管理でいちばん海外と形が違うのが、Impellaとの併用(ECPELLA)の比重だ。JCS 2023は「近年、ECMO装着患者におけるIMPELLA装着による成績向上の報告がなされており、左室減圧目的にECPELLAへのアップグレードが多く行われている」と書いている。

同ガイドラインは、IMPELLA先行例にV-A ECMOを追加してECPELLAへアップグレードする状況として、「重度の低酸素血症を呈する場合,心室不整脈が頻発・持続している場合,右心不全のためIMPELLAの回転数を増加させても流量が確保できない場合,十分な流量を確保するためにIMPELLAの回転数を上げると溶血がコントロールできないなどの場合」を挙げている(本章の文脈である「ECMO先行例にIMPELLAを追加する」とは向きが逆である点に注意)。離脱の順番も書かれていて、「これら補助循環により臓器低灌流の改善が得られれば,原則的にV-A ECMOから先にウィーニングし,続いてIMPELLAを離脱する」

日本のデータでは差がついていない

ただし冷静に見ておきたいデータもある。日本のレセプトデータベースを使った傾向スコア研究では、末梢VA-ECMOにIABPを併用した801例とImpellaを併用した139例から126対をマッチさせたところ、院内死亡は50.8% vs 50.0%で差がなかった

一方でECPELLA群は人工呼吸期間が長く(中央値11.5日 vs 9.0日、P=0.008)、入院期間も長く(32.5日 vs 23.0日、P=0.017)、医療費も高かった(909万円 vs 523万円、P<0.001)

「多く行われている」ことと「良い」ことは別だ、という当たり前のことを、日本のデータが示している。

Impellaの導入には施設要件があり、心臓血管手術年間100例以上、最近3年間のIABP 30例以上かつPCPS/ECMO(VV-ECMOを除く)20例以上、PCI 300例以上などが求められる。さらに全症例のレジストリ登録が施設認定の条件で、登録が滞ると認定停止の措置がありうる。日本らしい、悉皆登録を前提とした制度設計になっている。

10やりがちな失敗とTake home

1 左手や下肢のSpO₂で管理する 右上肢が自己肺ゾーンを体表で測れる唯一の場所。左手では見えない。
2 VAだからとsweep gasを切る 膜に血が流れてガスが流れなければ右左シャントになる。決して止めない。
3 脈圧が出てきたので安心する 脈圧20 mmHg超はmixing pointが末梢へ動いた合図。むしろdifferential hypoxiaのリスクが上がる。
4 上下差を見つけて即座に構成変更 まず人工呼吸設定の最適化から。シナリオ1で慌てない。
5 ELSOの√の数を予後の順位と読む あれは減圧効果の強さ。予後改善度ではない。
6 所見がないのに全例早期減圧 RCTは2つとも差を示していない。害は明確に増える。
7 DanGer ShockをECPELLAの根拠にする あれはSTEMIショックへのImpella単独の試験。集団が違う。
8 足背動脈を触診で評価する 拍動が乏しく当てにならない。ドプラとNIRSで(→④)。

Take home

  1. 末梢VAの3つの宿題は合併症ではなく設計の帰結。毎日探しに行く
  2. 自己肺は右上肢の血液ガスで、膜肺は膜後の血液ガスで、それぞれ別に管理する
  3. VA-ECMOでsweep gasを止めない。右左シャントになる
  4. LV過膨張は脈圧5〜10 mmHg未満・大動脈弁が開かない・左室のもやもやエコー・肺水腫で拾う
  5. 左室過膨張は生存より「心筋が戻るか」に効く。ECPR導入例は減圧を要するリスクが高い(OR 3.64)
  6. 減圧は観察研究とRCTで結論が食い違う。所見があれば減圧、なければ様子を見る
  7. 減圧は害を確実に増やす(重症出血38.4% vs 17.9%、腎代替療法58.5% vs 39.1%)
  8. V-AVは救済手段。系統的レビューでも5研究77例しかない
参考文献
  • Lorusso R, et al. ELSO Interim Guidelines for Venoarterial ECMO in Adult Cardiac Patients. ASAIO J. 2021;67:827-844.(LV過膨張の徴候、減圧手段の表、differential oxygenation)
  • Badulak J, Abrams D, Luks AM, et al. Position paper on the physiology and nomenclature of dual circulation during venoarterial ECMO in adults. Intensive Care Med. 2024;50:1994-2004.(mixing point、自己肺ゾーン/膜肺ゾーン、3段階、右上肢での監視、sweep gasを止めない)
  • Truby LK, et al. Incidence and Implications of Left Ventricular Distention During Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation Support. ASAIO J. 2017;63:257-265.(頻度7%/22%、心筋回復率、ECPRが危険因子)
  • Russo JJ, et al. Left Ventricular Unloading During Extracorporeal Membrane Oxygenation in Patients With Cardiogenic Shock. J Am Coll Cardiol. 2019.(観察研究17件3,997例)
  • Grandin EW, et al. Mechanical Left Ventricular Unloading in Patients Undergoing Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation. J Am Coll Cardiol. 2022.(レジストリ12,734例)
  • Schrage B, et al. Left Ventricular Unloading Is Associated With Lower Mortality in Patients With Cardiogenic Shock Treated With Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation. Circulation. 2020.(傾向スコアマッチ255対、害の内訳)
  • Kim MC, et al. Early Left Ventricular Unloading or Conventional Approach After Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation (EARLY-UNLOAD). Circulation. 2023.(RCT 116例)
  • Park H, Yang JH, Ahn JM, et al. Early left ventricular unloading vs conventional approach in VA-ECMO (EVOLVE-ECMO). Eur J Heart Fail. 2023;25:2037-2046.(60例)
  • Kim AR, et al. Outcomes of left ventricular unloading with a transseptal cannula during extracorporeal membrane oxygenation in adults. Artif Organs. 2021;45:390-398.(経中隔左房ベント62 vs 62)
  • Baruteau AE, et al. Percutaneous balloon atrial septostomy on top of venoarterial ECMO. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2018;7:70-79.(64例)
  • Lorusso R, et al. Pulmonary artery cannulation to enhance extracorporeal membrane oxygenation management in acute cardiac failure. Eur J Cardiothorac Surg. 2020.(15例)
  • Møller JE, et al. Microaxial Flow Pump or Standard Care in Infarct-Related Cardiogenic Shock (DanGer Shock). N Engl J Med. 2024.(VA-ECMOの試験ではない)
  • Aso S, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H. The Effect of Intraaortic Balloon Pumping Under Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation on Mortality of Cardiogenic Patients. Crit Care Med. 2016;44:1974-1979.(日本の全国DPC、傾向スコア533対)
  • Blandino Ortiz A, Belliato M, Broman LM, et al. Early Findings after Implementation of Veno-Arteriovenous ECMO: A Multicenter European Experience. Membranes (Basel). 2021;11:81.(32例、流量配分、乳酸)
  • Saxena A, et al. Utilization and outcomes of V-AV ECMO: A systematic review and meta-analysis. Artif Organs. 2023.(5研究77例)
  • Nitta M, et al. ECPella vs ECMO-IABP in cardiogenic shock: propensity-matched analysis of a Japanese claims database. Circ J. 2024;88:1276-1285.(126対、院内死亡50.8% vs 50.0%)
  • 2023年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン フォーカスアップデート版 PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作.(North-south syndrome、左室減圧、ECPELLA、離脱の順番)
  • Impella 適正使用指針/J-PVAD 施設要件.(心臓血管手術100例以上、IABP 30例・PCPS 20例・PCI 300例、全症例レジストリ登録)
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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