「細胞外液を1L入れたところで血圧が上がってきたので、輸液反応性があります」「1.5Lほど入れましたが血圧が上がりません。輸液反応性がありませんでした」。どちらもよく聞くプレゼンで、どちらもある意味で正しく、ある意味で間違っている。輸液を入れて血圧が上がることだけを反応性と呼ぶのであれば、どれほど簡単であるか。
前回(①)で、循環はperfusionとoxygen deliveryの2本の軸だと書いた。輸液はこの2本を同時に上げられる、ほぼ唯一の手段である。静脈還流を上げれば心拍出量が増えてDO₂が上がり、同時に平均血圧が上がって全身・臓器の灌流圧が上がる。
だからこそ、入れる前に確かめることがある。この記事はそこを書く。
この記事でわかること
- 輸液反応性の存在が、輸液の適応ではなく前提条件にすぎないこと
- Frank-Starling曲線が平坦部に入るより先に、EVLWの曲線が立ち上がりはじめること
- 血行動態が不安定な患者のうち、輸液に反応するのは半分程度しかいないこと
- PPVは差を平均で割る式であること。和ではないこと
- ICUでPPV/SVVの妥当性基準を全部満たすのは311例中6例(2%)だったこと
- 低一回換気量でPPV/SVVを救済するtidal volume challenge
- PLRを脈圧で判定すると感度が85%から58%まで落ちること
- EEOテストが、低一回換気量でも成績を落とさないというPPV/SVVと逆の性質を持つこと
- Eadynが予測しているのは心拍出量ではなく血圧であること
- 輸液制限そのものは予後を変えなかったこと(CLASSIC・CLOVERS)
- 同じ生理を「抜く前」に使って、除水の忍容性を推定できること
1「反応性がある」は、輸液の適応ではない
いま、これを読んでいるあなたに輸液は要らない。十分な灌流圧が保たれているからである。ただし、あなたに輸液チャレンジをすれば、おそらく心拍出量は上がる。健常者はFrank-Starling曲線の上行脚にいるからである。
ここが出発点になる
輸液反応性の存在は、輸液の適応ではない。輸液の前提条件にすぎない。
Monnetらが2022年の総説で書いている一文で、この記事の芯でもある。「反応性がある」は「入れてよい理由」ではなく「入れても無駄にはならない条件」でしかない。適応を作るのは、あくまで組織低灌流の存在である。
だから順番はこうなる。
| 順 | 確かめること |
|---|---|
| ① | 輸液の必要性はあるか(組織低灌流の所見はあるか) |
| ② | どれくらい入れたところで再評価するか、を先に決める |
| ③ | 反応性はあったか |
| ④ | なければ次の手は何か |
漫然と落とさない、というのはこの4つを飛ばさないという意味である。
2Frank-Starling曲線と、その裏で立ち上がるもう1本の曲線
心拍出量は前負荷・後負荷・心収縮力の3つが揃って初めて決まる。それぞれ独立ではなく、前負荷(容量負荷)が増えると心拍出量が増え、後負荷(圧負荷)が増えると心拍出量が減る。前負荷、つまり静脈還流が増えるとStarlingの法則から心拍出量が増える。後負荷、つまり血圧が高いほど左室から血液が出ていきにくく、心拍出量が減る。
Starlingの法則は、生理学的に言えば「拡張期に心筋が伸展するほど、弾性力をもって収縮し、心拍出量が増える」ということである。拡張期に伸展するかどうかは、どれだけ容量が入るかと同義になる。
前提条件があることは押さえておく
厳密には、この法則は「心収縮力と後負荷は同じ」という前提のうえで話をしているので、交絡は考慮されていない。それでも概ね許容できる。ただし、容量を上げすぎた結果としての圧負荷の増強や、心不全でそもそも十分な心拍出量を出せない場合があり、一定を超えたところで心拍出量が下がっていく点がある。
図1:Frank-Starling曲線と、EVLWの曲線
もう1本の曲線について補足しておく。下に凸のこの曲線はMarik–Phillips曲線と呼ばれ、縦軸は血管外肺水分量(EVLW)である。輸液を入れたときに、左室が充足しているために肺の血管外へどれだけ水が漏れるかを表す。AよりBで漏れる量が多いのは肌感覚どおりで、充足したあとの輸液は当然のように溢水をきたし、有害になる。
そしてこの曲線は、重症病態で左方へ動く
原典が明記しているのは敗血症だが、透過性が亢進する病態では同じ量を入れてもより手前で漏れ始める。
Frank-Starling曲線の平坦部に入るより先に、EVLWの曲線が立ち上がりはじめる。これが「輸液反応性があっても入れないほうがよい」場面の正体である。
3輸液チャレンジ ― 半分は効いていない
一番簡便で、わかりやすく使われる方法である。
輸液チャレンジ
晶質液500 mLを10〜30分かけて投与し、一回拍出量(または心拍出量)が10〜15%上昇すれば輸液反応性あり。
輸液の意義を最も直接的に評価しているのはこの方法だと思う。実際に入れて、実際に上がったかを見ているのだから当然である。ただし、3つ知っておくことがある。
(1) 反応するのは半分程度しかいない
反応率の実際
| 血行動態が不安定な患者全般 | およそ50%。43研究をまとめた解析では57%±13% |
| 敗血症性ショックの低血圧患者 | 40%未満と推定されている(実測値ではない) |
| FACTT試験(ARDS)の二次解析 | 初期蘇生後の127例に行われた569回のボーラス(15 mL/kg)のうち、心係数が15%以上増えたのは23% |
これは輸液チャレンジの不完全性ではなく、「輸液が必要と判断して入れたうち、本当に必要だったのは半分程度だった」ということである。
ついでにCVPの話
同じ解析はCVPについても答えを出している。ベースラインCVPと一回拍出量・心係数の変化の相関は0.18、AUC 0.56。「CVPで輸液を導く診療を支持するデータはなく、放棄されるべき」と結論している。
(2) 30分より先を見ていない
ICUに入るような重症患者で、晶質液が血管内に残るかは疑わしい。
晶質液はどれだけ残るか
敗血症患者および実験モデルでは、晶質液ボーラスの投与終了1時間後に血管内に残っているのは5%未満とされる。
ここは限定つきで読む必要がある。健常者では話が違い、投与した晶質液の15%が3時間後も血管内に残り、50%は血管外の細胞外液区画に移動する。つまりこの「5%」は病態と時間に強く依存する数字で、一般化すると言い過ぎになる。ただし、我々が輸液チャレンジをする相手は前者である。
(3) 実臨床では、そもそも指標を見ていない
FENICE研究は、輸液チャレンジの実態を多国籍で調べたものである(2,213例)。
FENICE研究が見せた実態
- 投与量の中央値 500 mL、投与時間の中央値 24分、最多の適応は低血圧で59%
- 血行動態変数を一切使わなかった症例 43%
- 動的指標(PPV/SVV/PLRなど)を使った症例 22%
- 中止基準(安全性の上限変数)を決めなかった症例 72%
半数近くが、何の指標も見ずに輸液チャレンジをしている。そして4分の3が、どこで止めるかを決めずに始めている。
4PPV/SVV ― ICUで条件を全部満たすのは2%
強制換気下では非常に有効な指標である。人工呼吸器の陽圧に伴う胸腔内圧の周期的変動が静脈還流を変え、その結果生じる動脈圧の振幅の変動から、前負荷依存性を推定する。
図2:PPV/SVVの式・条件・そして使える患者の割合
式は「差」である
PPV(%)= 100 ×(PPmax − PPmin)÷〔(PPmax + PPmin) ÷ 2〕
分子は脈圧の最大値と最小値の差、分母はその平均である。和ではない。和を平均で割ったら常に2になる。
閾値は一般に12〜13%で、原著は13%をカットオフに感度94%・特異度96%を報告している。
この条件を全部満たす患者は、ほとんどいない
ここが一番の数字である。
Mahjoubらの多施設ポイントプリバレンス研究
フランス26のICUを対象にした311例で、PPVの妥当性基準を全部満たしたのは311例中6例(2%)。動脈ライン留置例170例に限っても5例(3%)だった。
肺保護換気が標準になった今、一回換気量8 mL/kg理想体重以上という条件だけで大半が落ちる。PPV/SVVはICUではほぼ使えない、と考えておいたほうが実態に近い。だからこそPLRやEEOのような機能的血行動態テストが要る、という話につながる。
グレーゾーン ― 条件を満たしても値が中間なら結論は出ない
| 手術室(全身麻酔・人工呼吸下)413例 | PPV 9〜13%が感度・特異度とも90%未満のグレーゾーン。患者の約25%がここに入る |
| ICU患者(556例) | PPV 4〜17%まで広がり、妥当性基準を満たす患者の62%がこの範囲に入った |
理由は肺保護換気(低一回換気量)が標準だからである。
救済策:tidal volume challenge
一回換気量を6 mL/kg理想体重から8 mL/kg理想体重へ1分間だけ上げ、その間のPPV/SVVの変化量を測って、元に戻す。
| ΔPPV(6→8) 3.5%以上 | AUROC 0.99、感度94%・特異度100% |
| ΔSVV(6→8) 2.5%以上 | AUROC 0.97、感度88%・特異度100% |
1分で終わり、実質的に無害で、成績は元のPPVより良い。知っていると使いどころが多い。
5PPV/SVVが使えないときの3つ
図3:PLR・EEO・IVCの比較
(1) PLR(passive leg raising)
圧倒的に簡便なのが利点である。他動的に両下肢を挙上させると、下肢から胸腔内へおよそ300 mLの血液が移動する。その静脈還流の増加で心拍出量が増えるかを見る。評価項目は輸液チャレンジと同じで、輸液そのものをしなくてよいのが最大の利点になる。
成績は良い。23試験1,013例のメタ解析で、感度86%(79-92)、特異度92%(88-96)、AUC 0.95。
ただし、何を測るかで別物になる
| 心拍出量・一回拍出量で判定 | 感度85%、特異度92% |
| 脈圧で判定 | 感度58%、特異度83% |
(p<0.001)。血圧で見るなと言われる理由がここにある。脈圧でやると感度が58%まで落ちる。半分近く見逃す検査になってしまう。
Monnet & Teboulの5ルール
- 45°セミリカンベント位から開始する(水平臥位からではない)
- 下肢の挙上で動員されるのは約300 mL
- 血圧ではなく心拍出量を測る
- リアルタイムで測れる方法を使う。効果は1分以内に最大となり、急速に消退する
- ベッドの角度を変えて行い、術者が患者の脚を持ち上げない
5番目には理由が書かれている。疼痛・咳嗽・不快感による交感神経刺激が結果を歪めるからである。患者に触れない。
禁忌と、もう1つの偽陰性要因
頭蓋内圧亢進のある患者にPLRは禁忌である。下肢挙上で頭蓋内圧がさらに上がる。
また弾性ストッキングを履いていると動員される血液量が減るため、偽陰性になりやすい。
限界:腹腔内圧が上がっていると偽陰性になる
人工呼吸中の60例(IAHなし30例/IAHあり30例、IAH群のIAPは平均20±6 mmHg)で、IAP 12 mmHg以上(IAHの定義)があるとAUCが0.98から0.60へ落ちた。IAH群では実際に反応性のあった21例のうち、PLRが陽性になったのは6例だけだった。
(2) EEOテスト(呼気終末閉塞試験)
呼気終末で15秒間、換気を停止する。陽圧による静脈還流の妨げが消えるので、前負荷が増える方向に働く。心係数が5%以上増えれば輸液反応性ありと判断する。
13研究530例の統合
| 成績 | 感度0.85、特異度0.88、AUSROC 0.91 |
| 統合最適閾値 | 心係数 5.1 ± 0.2% |
| 一回換気量7 mL/kg以下 | 成績は落ちない(AUSROC 0.96 vs 0.89、p=0.44) |
| 組み入れ研究のPEEP | 4〜14 cmH₂O(中央値7) |
低換気量でも落ちない、というのがPPV/SVVとの決定的な違いである。低一回換気量でPPV/SVVが脱落していく一方、EEOはそこで成績を落とさない。
制約は2つ
15〜30秒の呼吸停止に耐えられることが前提になる。そしてリアルタイムの心拍出量モニタが要る。
心エコーのVTIは最小有意変化が約10%あるので、EEOの5%という閾値は検出できない。心エコーでやるなら、EEOに吸気終末閉塞を組み合わせて閾値を13%にする方法が提案されている。
(3) IVC / SVC
IVCは超音波で簡便に済むのが利点で、実際よく使われる。ただし成績は、思われているほど良くない。
IVCのメタ解析
| 自発呼吸下の8研究497例 | 感度63%(46-78)、特異度83%(76-87) |
| 21研究1,321例の別のメタ解析 | 感度72%(64-79)、特異度81%(76-86) |
しかもカットオフが研究間で15〜42%とばらついていて、統一されていない。メタ解析の結論は「moderate accuracyにとどまり、単独で使ってはならない」である。Monnetらの表現では「極端な値のみが有用」。
SVCのほうは信頼度が高いとされる。虚脱指数36%をカットオフに感度90%・特異度100%。ただし66例の単一施設研究1本に依存しており、しかも経食道エコーが要るので、現実的な選択肢ではない。
補足:mini-fluid challenge
100 mLを1分で投与し、一回拍出量の5%増加(範囲3-7%)を閾値とする方法もある。統合感度0.82、特異度0.83、AUC 0.91。ただしこの5%も心エコーの最小有意変化を下回るので、パルス波形解析のようなリアルタイム法が前提になる。
6「反応性はあるが血圧が上がらない」をどう言語化するか
ここが一番大事なところだと思う。
よく聞くプレゼン
「敗血症を疑う患者に輸液を行い、血圧が上がらなかったので、輸液反応性がないと判断してノルアドレナリンを開始しました」
このプレゼンの問題は、血圧が上がらない=輸液反応性がない、としているところである。心拍出量はおそらくそれなりに上がっている。チャレンジテストの基準で言えば、輸液反応性ありになる可能性が高い。
では、なぜ血圧が上がらないのか。血圧を決めているのは心拍出量だけではなく、血管抵抗との積だからである。正確に言えば「輸液反応性はある。ただし敗血症に伴って末梢血管抵抗が低下しているため、心拍出量が増えても血圧が上がらない」と言わなくてはならない。
この場合、ノルアドレナリンを始める判断そのものは正しい
正しい判断に、間違った理由がついている、という状態である。理由が間違っていると、次の判断も間違う。
図4:輸液反応性ありのあとの分岐
ここから先はadvanced ― dynamic arterial elastance(Eadyn)
これを一つの指標として言語化したものがEadynである。elastanceはcomplianceの対義語で、動脈がどれだけ伸展から戻りやすいかを表す。
Eadyn = PPV ÷ SVV
一回拍出量の変動に対して、脈圧がどれだけ変動したかを表している。血管が硬い(elastanceが高い)ほど、同じ一回拍出量の増加が大きな脈圧の増加になる。
この指標が何を予測しているのかを正確に押さえる
Eadynが予測しているのは、輸液反応性ではない。「輸液反応性があると分かっている患者のうち、血圧まで上がるのは誰か」である。
原著の対象は全例がすでにpreload-dependent(SVV 10%以上)と分かっている患者で、予測対象は「輸液負荷後にMAPが15%以上上がるか」だった。心拍出量が増えるかどうかではない。
つまりEadynは、いまの話にちょうど当てはまる位置にいる。輸液反応性の指標の列に並べるのではなく、昇圧反応の予測指標として別枠に置くのが正しい。
数字の扱いには注意が要る
原著はEadyn 0.89超で感度93.75%・特異度100%、AUC 0.986。ただしn=25の単一施設研究で、95%信頼区間は感度69.8-99.8%、特異度66.4-100%。「感度94/特異度100」だけを見ると精度を大幅に過大評価する。
「自発呼吸下でも問題なく評価できる」は支持されない
根拠になりうるのは自発呼吸下26例(34回の輸液負荷)の1研究だけで、しかもカットオフが人工呼吸下の0.89ではなく1.06と別の値になっている。8研究323例のメタ解析は人工呼吸例に限られており、自発呼吸下のEadynを支持するメタ解析は存在しない。
そのメタ解析でも、統合AUCは0.92と良好だがカットオフは0.65〜0.89とばらつき、ICU患者のAUC 0.96に対して手術室患者は0.72まで落ちる。
7総量を減らすことが目的ではない
この数年で、輸液の議論の重心が動いた。輸液制限戦略を検証した2つの大規模試験は、どちらも陰性だった。
制限戦略の2試験
| CLASSIC(敗血症性ショック、輸液制限 vs 標準) | 90日死亡 42.3% vs 42.1% |
| CLOVERS(敗血症性低血圧、輸液制限+早期昇圧 vs 輸液優先) | 90日死亡 14.0% vs 14.9% |
つまり「輸液の総量を減らすこと」自体は予後を変えなかった。
一方で、2025年のANDROMEDA-SHOCK-2は違う設計をしている。毛細血管再充満時間(CRT)を標的にした個別化蘇生プロトコルで、原著はその柱を「いかなる輸液蘇生の前にも系統的に輸液反応性を評価すること」と述べている。実装は、まず脈圧を見て40 mmHg未満の患者で輸液反応性を評価し、陽性なら晶質液またはコロイド500 mLを30分で投与する、という構造である。
具体的にどのテストを使ったか
ANDROMEDA-SHOCK-2の本文はテストを列挙していない。前身のANDROMEDA-SHOCK(2019)の二次解析には、PLR-脈圧/PLR-VTI/PPV/EEO/IVC変動が用いられ、心拍出量10〜15%上昇に対する検証済みカットオフのみが許容された、と明記されている。
ANDROMEDA-SHOCK-2(1,467例、19カ国86施設)
- 主要評価項目は階層的複合エンドポイントで、層別win ratio 1.16(95%CI 1.02-1.33)
- 介入群の勝率48.9% 対 通常ケア42.1%
- 効果はAPACHE II 19超の重症層で主に駆動されていた
ただしここは正確に読む必要がある
28日死亡は 26.5% 対 26.6%、ハザード比0.99(95%CI 0.81-1.21)で差がない。
勝ったのは階層的複合エンドポイントであって、死亡ではない。「輸液反応性を見る戦略が死亡を減らした」と読むのは誤りである。
それでもこの試験の意味は小さくない。輸液反応性の系統的評価をプロトコルに組み込んだ戦略が、複合アウトカムで通常ケアを上回った初めての大規模RCTだからである。
3つを並べると、結論はこうなる
輸液反応性を見る意味は「総量を減らすこと」ではない。「効かない1回を避けること」である。
前身のANDROMEDA-SHOCK(2019)も、28日死亡は34.9% vs 43.4%(ハザード比0.75、p=0.06)で主要評価項目は有意差なしだった。ただし最初の8時間の輸液量が408 mL少なく、72時間のSOFAが有意に低い。同じ結果に、より少ない輸液で到達したという読み方はできる。
8PLRを逆に使う ― 除水は耐えられるか
PLRはマイナスバランスをプラスに持っていくときの予測に使う道具だが、逆はどうか。
PLRが判定しているのは「心拍出量が前負荷に依存して上がるかどうか」である。言い換えれば「前負荷が減ったら、心拍出量が減るのではないか」という仮説を立てられることになる。
想定する場面は、循環不全から輸液療法で血行動態が改善し、そのあと間欠的血液透析(IRRT)で除水が必要になったケースである。除水を始めてから血圧が落ちると、それまでの管理が一気に台無しになる。始める前に耐えられるかを知りたい。
除水を予定した重症患者39例39セッションの前向き観察研究
| 対象 | 透析中低血圧(IDH)を起こした13例と、起こさなかった26例 |
| IDH群 | 透析前のPLRで心係数が中央値15%(IQR 11-36%)増加 |
| 非IDH群 | 有意な変化なし(p=0.001) |
| AUC | 0.89(95%CI 0.75-0.97) |
| 最適カットオフ | 9%。感度77%・特異度96%、陽性的中率91%・陰性的中率89% |
読み方
除水の前にPLRをして、心係数の増加が9%未満なら除水に耐えられる可能性が高い(陰性的中率89%)。9%以上上がるなら、まだ前負荷依存の状態にあり、除水で血圧が落ちる可能性が高い。
39例の単施設観察研究なので、これで方針を決め切るには弱い。ただ「輸液を入れる前」だけでなく「抜く前」にも同じ生理が使える、という発想はそのまま応用が利く。
9やりがちな失敗
心拍出量はおそらく上がっている。血圧が上がらないのは末梢血管抵抗が低下しているからで、それは別の問題である。昇圧薬を始める判断は正しくても、理由が間違っていると次の判断も間違う。
差である。和を平均で割ったら常に2になる。PPV(%)= 100 ×(PPmax − PPmin)÷〔(PPmax + PPmin) ÷ 2〕。
ICUで妥当性基準を全部満たすのは311例中6例(2%)だった。肺保護換気が標準の今、一回換気量8 mL/kg理想体重以上という条件だけで大半が落ちる。
ICU患者ではグレーゾーンが4〜17%まで広がり、条件を満たす患者の62%がここに入る。この範囲では結論が出ない。tidal volume challengeで救済できる。
感度が85%から58%まで落ちる。心拍出量・一回拍出量で測る。そして患者の脚を持ち上げない。ベッドの角度を変える。疼痛や不快感による交感神経刺激が結果を歪めるからである。
自発呼吸下の感度は63%程度で、カットオフも研究間で15〜42%とばらついている。単独では決められない。極端な値でのみ参考にする。
低一回換気量でも成績を落とさない(AUSROC 0.96 vs 0.89、p=0.44で有意差なし)という、PPV/SVVと逆の性質がある。ただし心エコーのVTIでは5%の閾値を検出できないので、リアルタイムの心拍出量モニタが要る。
予測しているのは「輸液で血圧まで上がるか」であって、心拍出量が増えるかではない。原著の対象は全例がすでにpreload-dependentと分かっている患者である。
28日死亡は26.5% vs 26.6%で差がない。勝ったのは階層的複合エンドポイント(win ratio 1.16)である。
CLASSICもCLOVERSも、制限戦略で死亡は変わらなかった。目的は総量ではなく、効かない1回を避けることにある。
始める前にPLRをすれば、心係数の増加が9%未満で耐えられる可能性が高い(陰性的中率89%)。
10早見表とTake home
| 項目 | 押さえること |
|---|---|
| 輸液チャレンジ | 晶質液500 mLを10〜30分、SV/COが10〜15%増加で陽性。反応するのは約50%(43研究の統合で57%±13%)、敗血症性ショックでは40%未満 |
| PPV/SVV | PPV=100×(PPmax−PPmin)÷平均。差であって和ではない。閾値12〜13%。ICUで条件を全部満たすのは2%。グレーゾーンはICUで4〜17% |
| tidal volume challenge | VTを6→8 mL/kg PBWへ1分。ΔPPV 3.5%以上でAUROC 0.99(感度94/特異度100) |
| PLR | 約300 mL動員。感度86/特異度92(AUC 0.95)。ただしflow変数で85/92、脈圧では58/83。IAP 12 mmHg以上(IAH)があると偽陰性が増える |
| PLRの5ルール | 45°セミリカンベントから開始/約300 mL/血圧ではなくCO/リアルタイム測定/脚を持ち上げずベッドの角度を変える |
| EEO | 呼気終末15秒停止、心係数5%増加。感度0.85/特異度0.88。低VTでも落ちない(0.96 vs 0.89、p=0.44)。心エコーVTIでは検出できない |
| IVC | 自発呼吸下で感度63/特異度83。カットオフ15〜42%と不統一。単独では使わない |
| mini-fluid challenge | 100 mLを1分、SV 5%増加。感度0.82/特異度0.83、AUC 0.91 |
| Eadyn | PPV÷SVV。輸液反応性ではなく昇圧反応の予測指標。0.89超で感度94/特異度100だがn=25、95%CIは感度69.8-99.8% |
| CVP | ベースラインCVPと変化の相関0.18、AUC 0.56。輸液を導く指標としては使わない |
| 晶質液の残存 | 敗血症患者・実験モデルでは1時間後に5%未満。健常者では3時間後でも15%残る |
| FENICE | 43%が血行動態変数を一切使わず、72%が中止基準を決めずに輸液チャレンジを始めていた |
| 制限戦略 | CLASSIC 90日死亡 42.3% vs 42.1%、CLOVERS 14.0% vs 14.9%。いずれも差なし |
| ANDROMEDA-SHOCK-2 | win ratio 1.16(1.02-1.33)で複合エンドポイントは勝ったが、28日死亡は26.5% vs 26.6%で差なし |
| 除水 | 透析前PLRで心係数の増加が9%未満なら耐えられる可能性が高い(陰性的中率89%) |
Take home
- 輸液反応性の存在は輸液の適応ではなく、前提条件にすぎない。適応を作るのは組織低灌流の存在である
- 血行動態が不安定な患者のうち、輸液に反応するのは半分程度しかいない
- 反応性が乏しくなっていく過程で、EVLWの曲線はすでに立ち上がりはじめている。敗血症ではその立ち上がりが左へ寄る
- 「血圧が上がらない」は「輸液反応性がない」ではない。心拍出量は上がっていて、末梢血管抵抗が落ちているだけかもしれない
- PPVは差を平均で割る。和ではない
- ICUでPPV/SVVの条件を全部満たす患者は2%しかいない。だからPLR・EEOのような機能的テストが要る
- PLRは何を測るかで別物になる。脈圧で判定すると感度が58%まで落ちる。そして患者の脚を持ち上げない
- EEOは低一回換気量でも成績を落とさない。PPV/SVVと逆の性質を持つ
- IVCは単独で使わない。カットオフすら定まっておらず、極端な値でのみ参考にする
- Eadynが予測しているのは、心拍出量ではなく血圧である
- 輸液制限そのものは予後を変えなかった。目的は総量ではなく、効かない1回を避けることにある
- ANDROMEDA-SHOCK-2が勝ったのは複合エンドポイントであって、死亡ではない
- 同じ生理は「抜く前」にも使える。除水の忍容性はPLRで推定できる
次回(③)は、ここまで「入れる/入れない」で扱ってきた輸液そのものの中身に入る。何を選ぶか、そしてなぜそれが計算どおりに効かないのかを書く。
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循環管理シリーズ
- 循環管理 ①循環動態の基礎
- 循環管理 ②輸液反応性(この記事)
- 循環管理 ③ 輸液の基礎
- 昇圧薬・強心薬の使い分け ―どれを・いつ・どれだけ(循環管理③)
