ECMOは始めるよりやめるほうが難しい。回復して離脱できれば最良だが、そうならないとき――橋を架けた先に岸がないと分かったとき――にどうするかまで含めて、この治療は完結する。本章(ECMO入門⑩)は、VVとVAの離脱手順、抜去後に62%で見つかる血栓、bridge to nowhereと呼ばれる事態への向き合い方、そして搬送と施設要件までを扱う。
この記事の芯
VVの離脱で下げるのはガスであって血流ではない。sweep gasを2〜3時間以上切って血液ガスを確認する。VAは大動脈弁VTI ≥10 cm・LVEF >20〜25%・TDSa ≥6 cm/秒を最小流量下で確認する。
そしてELSOが繰り返し書いていることがある。「無益性のために中止する可能性は、ECMOを開始する前に家族に説明されるべきである」。撤退の話は、撤退の場面ではなく導入の場面で始まっている。
この記事でわかること
- VVの離脱はsweep gasを切るトライアル。血流はカニューレあたり1 L/分超を保つ
- sweep gasを切ったまま2〜3時間以上、そのあとPaO₂ 70 mmHg以上とpHを確認する
- VAはAissaouiの3項目(大動脈弁VTI ≥10 cm/LVEF >20〜25%/TDSa ≥6 cm/秒)
- ELSOはVAの流量を500 mLずつ5〜10分ごとに下げる、と書いている
- 抜去後24時間でDVTを確認する。ある研究では62%に血栓、うち28%は大きな血栓だった
- bridge to nowhereの定義は「移植にも回復にも橋渡しできないこと」(Abrams 2014)
- 日本の3学会提言は「補助循環装置などの生命維持装置を終了する」と明記している
- ELSOの最低ラインは年6例。実データでは年30例超で死亡オッズ0.61
1離脱は出口から逆算する
ここまで繰り返してきたとおり、ECMOは橋であって目的地ではない。Abramsら(Chest 2014)はこれを一語で言い切っている。逐語で「それ自体は最終目的地となる装置ではない技術(a technology that is not a destination device in itself)」。
だから離脱の話は、実は導入の時点で始まっている。回復か、移植か、植込型補助人工心臓か。どこへ渡す橋なのかを決めずに架けた橋は、どこにも着かない。
ELSOが導入前に説明せよと書いていること
ELSOのVVガイドラインの「無益性」の項は、短いが密度が高い。逐語で「意味のある生存への合理的な希望も、臓器置換(移植や植込型左室補助装置など)への橋渡しの見込みもない場合には、患者の代理人・家族との共有意思決定を通じ、地域の法と慣行に従って、ECMOの中止を考慮すべきである」。
そして次の一文が重要だ。「無益性のために中止する可能性は、ECMOを開始する前に家族に説明されるべきである」。さらに「一般に、ECMOの経過の早期に期待値を明確に設定しておくことが重要である」。
回す前に「やめる話」をする。これは冷たいのではなく、あとで家族を守るための手順だと理解しておきたい。
2VVの離脱 ― sweep gasを切る
図1:離脱トライアルを始めてよい条件(ELSO)
| 項目 | ELSOが挙げる離脱トライアル開始の条件 |
|---|---|
| 酸素化(挿管中) | FiO₂ 60%以下が安定して維持できる/PEEP 10 cmH₂O以下/PaO₂ 70 mmHg以上 |
| 換気(挿管中) | 1回換気量 6 mL/kg予測体重以下/プラトー圧 28 cmH₂O以下/呼吸数 28回/分以下 |
| 画像 | 胸部X線で所見の改善が見られる |
| 非挿管の場合 | 中等量以下の酸素投与(経鼻カニューレやマスクで6 L/分以下、または高流量鼻カニューレ40 L/分以下でFiO₂ 0.3以下)でPaO₂ 70 mmHg以上 |
| 非挿管の場合 | 過大な呼吸仕事量なしに、臨床状況に見合ったpHとPaCO₂が保てている |
条件が揃ったら、実際の試験に進む。ELSOはこれを4段階で示している。
図2:sweep gas off trial の手順
| 手順 | やること | 基準 |
|---|---|---|
| Step 1 | 膜への酸素濃度(FdO₂)を下げる | 1.0から0.21へ、およそ20%ずつ段階的に。SpO₂ 92%超またはPaO₂ 70 mmHg以上を保てるか |
| Step 2 | sweep gas流量を下げる | 0.5〜1 L/分ずつ下げて1 L/分を目標に。各段階で血液ガスを確認 |
| Step 3 | sweep gasを切る | 中止に耐えられそうなら2〜3時間以上切ったままにする。SpO₂を監視し、規定時間後に血液ガス |
| Step 4 | 抜去の準備 | PaO₂ 70 mmHg以上と、過大な呼吸仕事量なしに臨床状況に見合ったpHであることを確認 |
表:ここで押さえるべき原則がひとつある。VVの離脱で下げるのは「ガス」であって「血流」ではない。ELSOは「血栓化を避けるため、カニューレあたり1 L/分超の血流を維持すること」と明記している。血流を落として回路を固めてしまっては元も子もない。もうひとつ、「人工肺の結露が除去されていることを確認する」という指示もある。水が溜まったままではCO₂除去能を過小評価してしまう。
挿管中なら人工呼吸器チャレンジも
ELSOは挿管中の患者について、離脱前に人工呼吸器側の余力も確かめよと書いている。容量規定モードなら「1回換気量を1 mL/kgずつ、6 mL/kgまで自由化する」、そのときに「各段階でプラトー圧が28 cmH₂O以下にとどまる」こと。圧規定モードなら「総圧を28 cmH₂Oを超えない範囲まで自由化し、1回換気量が6 mL/kgまで増えることを確認する」。
つまり「ECMOを外したあと、肺保護の範囲内で必要な換気量を出せるか」を先に確かめる。ここが通らなければ、sweepを切っても意味がない。
離脱成功の予測因子も研究されている。多施設の後ろ向き研究(84例、うち83.3%が離脱成功)ではventilatory ratio(換気比)が安全な離脱の予測因子で、1単位上昇ごとのオッズ比0.38(95%CI 0.17〜0.81)、P=0.01、AUCは0.76と報告されている。ただし単一の指標で決めるものではない。
3VAの離脱 ― 心エコーで見る
VAの離脱はVVと発想が違う。下げるのは血流で、それに心臓が耐えられるかを心エコーで見る。
図3:VA-ECMO離脱の基準
| 出典 | 基準 | 補足 |
|---|---|---|
| Aissaoui 2011(51例の観察研究) | 大動脈弁VTI ≥10 cm/LVEF >20〜25%/僧帽弁輪外側の収縮期波(TDSa)≥6 cm/秒 | 最小流量下でこの3つを満たした患者は全例が離脱に成功した |
| ELSOの離脱成功基準 | 平均動脈圧 >60 mmHg/LVOT VTI/TDSa ≥6 cm/秒/中心静脈圧 ≤10 mmHg/LVEF ≥25〜30% | 低用量の強心薬・昇圧薬1〜2剤の下で。原文のVTIの単位表記には誤植と思われる箇所がある |
| ELSOの流量の下げ方 | 500 mLずつ5〜10分ごとに減らす | 無補助(回路クランプ)3〜5分後、または最小1 L/分で評価する |
| 血行動態の基準(総説) | 心係数 >2.4 L/分/m²/平均血圧 >60 mmHg/肺動脈楔入圧 <18 mmHg/中心静脈圧 <18 mmHg | 脈圧は離脱成功群 52±12 mmHg、非成功群 39±15 mmHg |
| 右室の評価(総説が引用する別研究) | 3D右室駆出率のAUCが0.90(P<0.001)、カットオフ24.6% | 左室の充満圧を反映する指標(僧帽弁E波、E/e’)は離脱を予測しなかった |
表:Aissaouiの3項目は覚えやすく引用されやすいが、原著が示しているのは「3つを満たした患者は全員離脱できた」という陽性側の記述であって、感度・特異度やAUCは抄録に示されていない。著者自身も「これらの簡便で取得しやすいドプラ心エコー指標を、その後の離脱成功の予測因子として検証するにはさらなる研究が必要である」と結んでいる。「満たせば離脱できる」であって「満たさなければ離脱できない」ではない。
手順としては、総説が示すプロトコルが分かりやすい。「ECMO流量を最初の流量の66%まで10〜15分下げ、次に33%まで10〜15分、さらに最小1〜1.5 L/分まで10〜15分下げる」。「トライアル中に平均血圧が有意に低下し60 mmHg未満が続く場合は、流量を100%に戻して中止する」。
ELSOは低用量カテコラミンを数字で定義している
「低用量の強心薬の下で」という条件は曖昧に聞こえるが、ELSOのVAガイドラインは具体的な数字を挙げている。ドパミン 3 μg/kg/分未満、ドブタミン 3 μg/kg/分未満、ミルリノン 0.3 μg/kg/分未満、ノルアドレナリン 0.06 μg/kg/分未満、アドレナリン 0.1 μg/kg/分未満、フェニレフリン 1 μg/kg/分未満、バソプレシン 0.03 μg/kg/分未満。
また「低流量の時期および離脱トライアルの間は、適切な抗凝固が確保されているべきである」とも書かれている。流量を落とすときこそ回路が固まりやすい。
日本のガイドラインは「確立されていない」と正直に書いている
JCS 2023の記述が良い。逐語で「V-A ECMOからの離脱基準は確立されておらず,各施設において症例ごとに離脱の可否を判断しているのが現状である」。そのうえで実務的な目安を示す。
「V-A ECMOの補助流量を0.5Lずつ1.0〜1.5L/分まで減量し、人工肺の酸素流量を2L/分まで減量した状態で、動脈圧波形での脈圧の確認、平均動脈圧 >60 mmHg、混合静脈血酸素飽和度(SvO₂)>60〜65%、血中乳酸値(Lac)<2 mmol/Lを確認できれば離脱を考慮する」。
さらに時間の目安も書かれている。「可能であれば、V-A ECMO装着後48時間〜72時間で離脱を行うことが望ましく、それ以降では生存率が低下するという報告がある」「7日以上V-A ECMOの循環補助を必要とする症例では、心機能の改善による離脱の可能性は低いと考え、心臓移植の適応やLVADの適応になる可能性があるか念頭に置き、適応になる可能性のある症例では体外設置型LVAD装着等を検討すべきである」。7日という線が、次の項へつながる。
4抜去と、その後のDVT
図4:抜去の手順(ELSO VVガイドライン)
| 項目 | ELSOの記載 |
|---|---|
| 抜去前の抗凝固 | 少なくとも1時間前にヘパリンを止める |
| 体位 | 頸静脈カニューレならTrendelenburg位(頭低位) |
| 止血 | 縫合で閉創し、軽度の圧迫ドレッシングを当て、注意深く観察する |
| その他の準備 | 執刀者への連絡、絶飲食、血液型と不規則抗体スクリーニング、鎮静の準備 |
| 抜去後 | 24時間後に深部静脈血栓を確認する |
表:最後の一行が見落とされやすい。ELSOのVVガイドラインは抜去手順の最終ステップに「24時間後に深部静脈血栓を確認する」と、条件を付けずに書いている。理由は次の項の数字を見れば分かる。
抜去後の静脈血栓は62%
ELSOが条件を付けずに「24時間後にDVTを確認」と書く理由は、数字を見れば納得できる。
単施設197例のうち172例(87%)をスクリーニングした研究では、106例(62%)に血栓が見つかり、そのうち48例(172例中28%)は大きな血栓と判定された。別の研究でも「スクリーニングした患者において、ECMO後のカニュレーション血管の深部静脈血栓の有病率は1,000カニューレ日あたり8.1」と報告され、結論は「ECMO抜去後の深部静脈血栓の有病率は臨床的に有意であり、この集団ではルーチンの静脈ドプラ超音波検査が正当化される」。
リスク因子も出ている。平均aPTTが50秒以下だった患者(オッズ比1.02、P=0.013)と、抜去翌日にD-dimerの低下が50%以下だった患者(オッズ比2.76、P=0.041)。抜去後もD-dimerが下がらない例は血栓を疑うという、覚えやすい指標だ。
なおELSO自身も「大きすぎるカニューレは静脈うっ滞・血管損傷・深部静脈血栓を来しうるが、後者は適切なサイズのカニューレでも起こる」と書いている。サイズを守っても起きる、という前提でスクリーニングする。
5離脱できないとき ― bridge to nowhere
この言葉の出典を確認しておく。Abramsら(Chest 2014)の抄録に、「患者を移植にも回復にも橋渡しできないこと――いわゆる bridge to nowhere」とある。定義はきわめて即物的で、感情的な表現ではない。
ELSOのVAガイドラインが書いている倫理
ELSOのVA-ECMOガイドラインの倫理の項には、印象に残る一文がある。逐語で「ECMOチームは、まず行動してから考えるという誘惑に抗し、生を尊ぶだけでなく死をも尊ぶ形でECMOの使用を統べなければならない」。
同意についても率直だ。「同意の問題は一般に意味をなさない。ECMOが用いられる状況はたいてい緊急であり、包括的な同意を得る機会はめったに存在しないからである」。だからこそ「患者の近親者はこのことを知らされねばならず、ECMOの中止の可能性と適切な緩和ケアの提供についての話し合いは、とくにECMOが成功しそうにない状況では、早期に始めるべきである」。
そして「進行した治療の候補でない患者において治療の無益性に直面したときは、緩和的なアプローチと治療の中止を進めることは合理的である」。
チーム内の対立にも触れている。「高リスク患者へのECMOの適用についての意見の相違の結果として、ECMOチーム内に不和が生じうる。多職種委員会が定めた、合意された適応・除外基準のリストがあれば、この一部は避けられる」。個々の症例で揉めないために、平時に基準を決めておくという話だ。
英国のコンセンサスが「必須」に挙げた8項目
英国7施設17名による修正名義集団法のコンセンサスが、VV-ECMO中止のプロセスについて必須項目を挙げている。実務的で使いやすい。
多職種チームの関与、臨床評価と患者・代理人の意向の両方に基づくこと、医療チームと代理人の意見が対立したときの標準化された枠組み(外部のセカンドオピニオンと調停プロセスを含む)、awake ECMO患者では意思決定能力評価を正式に記録し本人または代理人を意思決定に関与させること、緩和ケアチームの早期関与、患者と家族への心理的支援(遺族支援を含む)、スタッフへの心理的支援。
そしてもうひとつ、「ECMO導入時から期待値の管理を含む開かれたコミュニケーションを行うこと。これには bridge to nowhere などのECMOの転帰について与えた情報の記録を含む」。「説明した」ではなく「説明を記録に残す」まで書かれている点が実務的だ。
6日本の枠組み ― 3学会提言と期限付き試行
日本でECMOを止める話をするとき、根拠になる文書がある。「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン〜3学会からの提言〜」(2014年、日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会)だ。
終末期の判断として4つの条件が挙げられている。逐語で「(1)不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後などを含む)であると十分な時間をかけて診断された場合」「(2)生命が人工的な装置に依存し、生命維持に必須な複数の臓器が不可逆的機能不全となり、移植などの代替手段もない場合」「(3)その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても近いうちに死亡することが予測される場合」「(4)回復不可能な疾病の末期、例えば悪性腫瘍の末期であることが積極的治療の開始後に判明した場合」。
(2)がbridge to nowhereとほぼ同義
4つのうち(2)が、英語圏で言うbridge to nowhereとほぼ一対一で対応している。「生命が人工的な装置に依存し」=ECMO依存、「生命維持に必須な複数の臓器が不可逆的機能不全となり」=多臓器不全、「移植などの代替手段もない」=出口がない。
そして延命措置についての選択肢として、逐語で「人工呼吸器、ペースメーカー(植込み型除細動器の設定変更を含む)、補助循環装置などの生命維持装置を終了する。」と明記されている。ECMOという語は使われず「補助循環装置」に含まれる形だが、日本語で書かれた直接の根拠文言はここにある。
より新しい改訂版として「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」(日本緩和医療学会が加わり4学会)が作られている。ここで新しく導入されたのが期限付きの特定の治療の試行(Time Limited Trial, TLT)という考え方だ。
逐語で「TLTとは、医療・ケアチームと患者・家族等の間で治療・ケアの方針に関して意見の相違がある場合や予後が不明確である場合に、患者が望むゴールに向かって改善するか悪化するかを確認するために、両者で合意を得たうえで期間を決めて特定の治療を試行することである」。
ECMOはTLTと相性がいい
ECMOはまさに「良くなるか悪くなるかを見るために期間を決めて試す治療」だ。JCS 2023が「7日以上V-A ECMOを必要とする症例では心機能改善による離脱の可能性は低い」と書いていること、ELSOがbridge to decisionで始める際の条件として「提供するECMO支持の期間について明確に話し合うこと」を求めていることは、いずれもTLTの発想と重なる。
「1週間やってみて、心機能が戻る兆しがなければ移植・VADの適応を検討し、それもなければ中止を話し合う」――これを導入時に家族と共有しておけば、7日目の会話はまったく違うものになる。
なお4学会版は本稿執筆時点でパブリックコメント版として公開されているもので、確定版の版数・公表日は確認できていない。実際に参照する際は学会の公式ページで最新版を確認してほしい。
7移植という出口
回復が見込めなくても、出口が移植ならECMOは正当化される。判断の軸が「離脱基準を満たすか」から「移植適応を維持できているか」に変わるのがこの状況の特徴だ。
9年間72例の単施設報告がある。肺移植へのブリッジとしてECMOを受けた患者のうち移植に到達したのは40例(55.6%)、そのうち37例(92.5%)が生存退院し、21例(84.0%)が2年生存した。
歩けているかどうかが分かれ目になる
同じ研究で、移植に到達した群と到達しなかった群を分けた因子のひとつが歩行(ambulation)で、80% vs 56.2%(P=0.030)だった。強心薬・昇圧薬の使用(70% vs 93.8%、P=0.011)と重症度スコアも差がついている。日々の理学療法は69.4%の患者で達成されていた。
つまり移植が出口なら、リハビリは「余裕があればやること」ではなく治療そのものだ。⑤で扱ったawake ECMOと早期離床が、ここで意味を持つ。
同時に厳しい数字でもある。4割強は橋を渡り切れていない。英国のコンセンサスが望ましい項目として「中止の判断の前に、移植適応についての評価を行うべきである」を挙げているのは、この現実に対応している。
8搬送
自施設で回しきれないとき、あるいはより高次の施設へ移すとき、ECMOを装着したままの搬送が必要になる。
大規模なデータとしては、2010年1月〜2016年6月の536件の搬送(記録が追えたのは514件)の解析がある。163件(31.7%)で計206件の有害事象が発生したが、搬送中の死亡はゼロだった。
- 有害事象の65%(134件)は患者関連で、最多は「一回換気量の低下(肺への液体貯留の有無を問わず)」57件(患者関連の43%)。
- スタッフ関連で最も多かったのは機器の制御の不足。
- 機器・技術的な原因が30件(14.6%)。
- 車両・搬送関連が26件で、その半数は救急車の設備や電源の不具合、病院や空港での救急車のサイズ違い。
結論は率直だ。逐語で「ECMOで搬送する場合、高リスクあるいは突然の生命の脅威となる状況は避けられず、ただちに、時には数秒のうちに対処しなければならない。よく訓練されたスタッフと、経験豊富で症例数の多い組織が推奨される」。
別の米国の10年コホートでは成人265例が「転帰に悪影響を及ぼす搬送関連合併症なく」安全に搬送され、64%が生存退院したと報告されている。体制があれば安全にできるが、体制がなければ危ないという、ECPR(→⑧)と同じ構造がここにもある。
日本の搬送体制
日本には日本ECMOnetという全国的な相談・搬送支援の仕組みがある。公開されている活動実績(2020年2月〜2021年10月)には「ECMO等、重症呼吸不全管理に関する電話コンサルト実績237件」「重症コロナ患者搬送159件(ECMO搬送または人工呼吸器搬送)」、さらに「2021年4月 自衛隊と共に九州-関西間のECMO装着下航空機搬送を実施」といった記載がある。
一方、日本集中治療医学会が2025年に出した搬送ガイドラインには「重症患者の搬送においてECMO搬送の使用に特定の推奨を下すことはできない」という記述がある。同ガイドラインは「ECMOや人工呼吸管理中の患者の急変に対しては,対処可能な人員の同乗,医療資器材の準備,代替手技等を確保する」「急減圧事象が生じた場合には,患者の病態の変容と医療機器の正常作動を評価する。特にECMOにおける微小な気泡の発生に留意する」という航空搬送特有の注意も書いている。
9体制 ― 何例やっている施設か
図5:ECMOセンターの要件と、症例数と転帰
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| ELSOの最低ライン | 年間6例以上のECMO患者を支えられる地理的条件にセンターを置く | 「小規模なプログラム(年20例未満)では、全チーム員に追加の継続教育が必要かもしれない」 |
| Barbaro 2015(ELSOレジストリ) | 年30例超の施設は年6例未満の施設に比べ死亡オッズ 0.61(95%CI 0.46〜0.80) | 290施設56,222例。成人ではこの関連が2008-2013年でも維持されていた |
| 人員(ELSO) | プログラム全体に責任を持つ医師のディレクター1名/ECMO研修を受けた医師の24時間オンコール体制/ICU看護師とは別のECMO専門職 | 3か月以上ECMOポンプ管理に関わらなかったチーム員は再認定プロセスを受ける |
| 日本の施設基準(K916) | 「当該保険医療機関内に専任の臨床工学技士が常時一名以上配置されていること」 | 救命救急入院料・特定集中治療室管理料・小児特定集中治療室管理料のいずれかの届出が前提 |
表:ELSOが最低ラインとして示す「年6例」と、実データが示す「年30例超で有意に良い」の間には大きな開きがある。日本には年間症例数の下限を定めた公的な施設要件は見つからず、K916の施設基準が求めているのは集中治療の届出と専任臨床工学技士の常時配置である。⑤で見た国内の全国データ(年17例以上の施設で呼吸ECMOの死亡率が有意に低い)と合わせて読むと、日本の課題がどこにあるかは見えやすい。
Barbaroら(2015)はELSOレジストリの290施設56,222例を解析し、「年間30例超の成人ECMO症例を扱う施設でECMOを受けた患者は、年間6例未満の施設と比べて有意に低い死亡オッズ(調整オッズ比0.61、95%信頼区間0.46〜0.80)を示した」と報告した。
同じ論文には「年間のECMO死亡率は施設間で大きくばらついた。成人では四分位範囲が33〜92%だった」という記述もある。成人ECMOの死亡率が33%の施設と92%の施設が同じ登録簿に並んでいる。
この連載を通じて繰り返し出てきたこと
⑤ではCESARが「集約すると転帰が良くなる」ことを示し、日本の全国DPCデータで年17例以上の施設の呼吸ECMO死亡率が有意に低いことを見た。⑧ではECPRのメタ解析が「施設症例数が倍になるごとに死亡オッズが下がる」ことを示していた。そしてここでも同じ構図が出てくる。
ECMOは、手技の巧拙より体制の有無で結果が決まる治療だ、というのがこの連載の裏テーマかもしれない。研修医にとっての実務的な結論はシンプルで、自施設で完結させようとしないこと。日本にはECMOnetという相談先がある。
10やりがちな失敗とTake home
| 1 VVの離脱で血流を下げる | 下げるのはsweep gas。血流はカニューレあたり1 L/分超を保たないと回路が固まる。 |
| 2 sweep offトライアルを数分で判定する | ELSOは2〜3時間以上と書いている。 |
| 3 人工肺の結露を確認しない | 水が溜まったままだとCO₂除去能を過小評価する。 |
| 4 Aissaouiの3項目を「満たさなければ離脱できない」と読む | 原著が示すのは「満たした患者は全員離脱できた」という陽性側の記述。感度は示されていない。 |
| 5 抜去後にDVTを見ない | ELSOは24時間後の確認を条件なしで指示している。62%に血栓が見つかった研究がある。 |
| 6 抜去翌日のD-dimerを気にしない | 低下が50%以下だとオッズ比2.76で血栓が多い。 |
| 7 中止の話を中止が必要になってから始める | ELSOは「導入前に家族へ説明しておくべき」と書いている。 |
| 8 移植が出口なのにリハビリを後回しにする | 歩行できていた群のほうが移植に到達している(80% vs 56.2%)。 |
| 9 自施設で抱え込む | 年30例超の施設は年6例未満に比べ死亡オッズ0.61。日本にはECMOnetという相談先がある。 |
Take home
- ECMOは橋であって目的地ではない。出口を決めずに架けた橋はどこにも着かない
- VVの離脱はsweep gasを切る。2〜3時間以上切ってPaO₂ 70 mmHg以上とpHを確認する
- VAは流量を500 mLずつ5〜10分ごとに下げ、大動脈弁VTI ≥10 cm・LVEF >20〜25%・TDSa ≥6 cm/秒を見る
- JCS 2023は48〜72時間での離脱が望ましく、7日以上なら移植・VADを念頭にと書いている
- 抜去後24時間でDVTを確認する。62%に血栓、D-dimerが下がらない例は要注意
- 無益性で中止する可能性は、導入前に家族へ説明しておく(ELSO)
- 日本の3学会提言は「補助循環装置などの生命維持装置を終了する」と明記している。(2)はbridge to nowhereとほぼ同義
- 移植が出口なら、判断軸は離脱基準ではなく移植適応の維持。歩けているかが効く
- 年30例超の施設は年6例未満に比べ死亡オッズ0.61。ECMOは体制で結果が決まる
参考文献
- Tonna JE, et al. Management of Adult Patients Supported with Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation: ELSO Guideline. ASAIO J. 2021;67:601-610.(離脱の条件、sweep off trial、抜去手順、無益性、bridge to decision)
- Lorusso R, et al. ELSO Interim Guidelines for Venoarterial ECMO in Adult Cardiac Patients. ASAIO J. 2021;67:827-844.(VA離脱の基準、低用量カテコラミンの定義、倫理)
- Aissaoui N, et al. Predictors of successful extracorporeal membrane oxygenation (ECMO) weaning after assistance for refractory cardiogenic shock. Intensive Care Med. 2011;37:1738-1745.
- Ortuno S, et al. Weaning from veno-arterial extra-corporeal membrane oxygenation: which strategy to use? Ann Cardiothorac Surg. 2019;8:E1-E8.(TTEプロトコル、血行動態基準、3D右室駆出率)
- Fischbach A, et al. The Ventilatory Ratio as a Predictor of Successful Weaning from a Veno-Venous Extracorporeal Membrane Oxygenator. J Clin Med. 2024;13:3758.(84例、VR)
- Cooper E, et al. Prevalence of Venous Thrombosis Following Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation in Patients With Severe Respiratory Failure. Crit Care Med. 2015;43:e581-e584.
- Fisser C, et al. Incidence and Risk Factors for Cannula-Related Venous Thrombosis After Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation in Adult Patients With Acute Respiratory Failure. Crit Care Med. 2019;47:e332-e339.(62%に血栓、D-dimerの低下50%以下でオッズ比2.76)
- Abrams DC, Prager K, Blinderman CD, Burkart KM, Brodie D. Ethical dilemmas encountered with the use of extracorporeal membrane oxygenation in adults. Chest. 2014;145:876-882.(bridge to nowhereの定義)
- UK consensus statement on priorities to support the process of withdrawal of veno-venous extracorporeal membrane oxygenation. Br J Anaesth. 2025;135:1223-1230.(必須8項目)
- 救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン〜3学会からの提言〜. 日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会. 2014年11月4日.(終末期の4条件、補助循環装置の終了)
- 救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン(パブリックコメント版).(期限付きの特定の治療の試行=TLT)
- Biscotti M, et al. Awake Extracorporeal Membrane Oxygenation as Bridge to Lung Transplantation: A 9-Year Experience. Ann Thorac Surg. 2017;104:412-419.(72例中40例が移植到達、歩行80% vs 56.2%)
- Ericsson A, Frenckner B, Broman LM. Adverse Events during Inter-Hospital Transports on Extracorporeal Membrane Oxygenation. Prehosp Emerg Care. 2017;21:448-455.(514搬送、31.7%で有害事象、搬送中死亡ゼロ)
- Tipograf Y, et al. A decade of interfacility extracorporeal membrane oxygenation transport. J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;157:1696-1706.(成人265例、生存退院64%)
- Barbaro RP, et al. Association of hospital-level volume of extracorporeal membrane oxygenation cases and mortality. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191:894-901.(年30例超で調整オッズ比0.61)
- ELSO Guidelines for ECMO Centers. Version 1.8, March 2014.(年6例、20例未満は追加教育、3か月の再認定)
- 令和4年度診療報酬改定 K916 体外式膜型人工肺管理料の施設基準.(専任の臨床工学技士が常時一名以上)
- NPO法人 日本ECMOnet 活動内容(2020年2月〜2021年10月の実績)/日本集中治療医学会:集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン. 日集中医誌 2025;32 Suppl 4.(2025年11月5日公開)
